第16話 幼妻? 後編
「マサツグ様、食後の耳かきの時間ですよ? さ、ここに頭をのせてくださいね」
そう言って自分の膝をぽんぽんとするのであった。
いわゆる、膝枕というやつである。
「えーっと、俺なんかが頭をのせたら嫌じゃないか?」
そういうのは好きな男性にするものだぞ?
だがエリンは、
「ヤな訳ありません!! むしろ、マサツグ様以外に膝枕なんて絶対にさせません!!」
と、強い口調で言うのであった。
やれやれ、まぁ、まだまだ子供だからな。慕われるのは嬉しいが、子供ゆえの思い込みという奴だろう。
俺はそんな事を冷静に考えつつ、仕方なく彼女に膝枕をしてもらうのであった。
「ど、どうですか? ちゃんと柔らかいでしょうか・・・。へ、変な匂いとかしませんよね? 他のみんなに5回はチェックしてもらったんですが・・・。そ、それに、こ、こんな時のためにお風呂に10回は入って、入念に体を洗うようにしてきましたし・・・」
「いや、そこまでしなくても・・・」
気合入れすぎじゃないだろうか。
しかし、エリンは首をぶんぶんと激しく横に振ると、
「いえ、ご主人様に膝枕をして差し上げるには全然足りないくらいです!! そ、それでいかがでしょうか? ご不快ではないでしょうか・・・?」
と不安げな表情で言うのであった。
「別に不快じゃないよ」
俺がそう簡単に答えると、少女は「パァーっ」とたちまち笑顔を浮かべた。先ほどまでの曇顔がいきなり打って変わって晴天になったかのような変貌っぷりである。
やれやれ、たかだか耳かきをするだけで大げさだなあ。
「そ、それでは耳かきさせてもらいますね! えへへ」
そう言って少女は嬉しそうに微笑みながら、俺に耳かきをしてくれるのであった。
実際、耳かきはとても気持ち良かった。
俺がそんな満足感に浸っていると、シーが声をかけてきたのである。
「いいなー、二人とも奥さんぽくて~。シーもやるやるー!」
そう言って、耳かきの終わった俺にシーがくっついてきた。
「いや、もう十分じゃないか?」
なかなか本格的だったしな。
だが、俺の言葉にシーがたちまち泣きそうな顔になり、
「ええー!? うう~、そんなー、そんなのってないよお・・・シーもマサツグさんの奥さんやりたい~。ぐすぐす」
そう言ってとても残念そうに眉根を寄せて、泣き始めたのであった。
「そんなに残念がらなくても・・・。分かった分かった、しょうがないなぁ。じゃあ、ちょっとだけな?」
俺がそう言うとシーはたちまち笑顔になる。
「えへへー」
そんな風に嬉しそうな笑みをこぼすのであった。
やれやれ、何でそんなに奥さん役をやりたがるのやら。
「じゃあ、シーに赤ちゃんができたシーンからねー?」
・・・はい?
「えっと、シーよ・・・さすがに、もうちょっと他のシーンの方が良いんじゃないか?」
俺はたまらず指摘する。
だが・・・、
「えー、シーこれがいいのー。マサツグさんと一緒に子供の名前考えたいよ~」
そう言って、常ならぬ強情さを発揮するのであった。
何で今日だけ、そんなに強硬なんだ・・・。
普段は俺の言うことならだいたい聞いてくれるのに・・・。
「まぁ、いいか・・・」
しょせんままごとだしな。俺はしぶしぶ了承する。
一方のシーは俺の言葉に、
「ほんと~? やったーやったー! えへへー」
と、とても幸せそうに笑うのであった。
「えっと、シーはねー、男の子だった場合は、レンで~、女の子だった場合は、レイラがいいなーって思うなー。マサツグさんはど~お?」
そう言って幸せそうに、自分のお腹を撫でながら俺に問いかけてきた。
な、なんだかちょっと仕草が本格的過ぎるぞ・・・。
だが、俺は冷静に答える。
所詮ごっこ遊びだしな!
「ああ、いいんじゃないか? 可愛くて良い名前だな」
俺の言葉に、シーは本当に嬉しそうに微笑んでお腹を撫でた。
・・・なんだか母性すら滲み出していると思うのは気のせいだろうか。
「ほんとー? 良かった~、早く生まれてきてくれるといいな~。シーとマサツグさんの赤ちゃん」
そう言ってウットリとした表情で優しく下腹部を撫でる。
・・・本当に演技なのだろうか・・・そう思わせるくらい堂に入っている。
「ねえねえ、マサツグさん。マサツグさんも触ってみてよ~」
そう言って俺の手を取ると、自分のお腹へと導いた。
「マサツグさんとの愛の結晶だよ~」
「えーっと、そうだな・・・」
「シーね~、子供は10人くらい欲しいなぁ~。あと9人だねー。名前も全部考えてるんだよー? 男の子だったら、ノア、ケルン、ジャック、ルーク、ディラ、レビイ、ジュリアン、アレク、ヘンリィね。女の子だったら、アンジェラ、シエラ、レイン、テレーズ、モニカ、ノエル、アニイ、ソフィー、ジュリアだよー?」
「よくそんなにスラスラ名前が出るな?」
「毎日考えてるからね~」
「そ、そうか・・・。・・・うん、よし、ごっこ遊びはここまでにしようか!」
俺は本能的に危機感を覚えて、おままごとの終了を宣言する。
えー、とか、もっとしましょうよー、とか言う声が上がるが、俺は断固として拒否したのであった。
何やら日ごとに何かの外堀が埋まっていくような気がしないでもないが、きっと気のせいだろう、うん。
俺はそう思って気にしないことにするのであった。
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