第15話 幼妻? 前編
「ご主人様、何かお手伝いすることはありませんか?」
「マサツグ様、どこかにお使いに行く用事があったら言ってくださいね?」
「シーに何かして欲しいことある~?」
そう言ってリュシア、エリン、シーの3人は俺にまとわりつく。
うーん、と俺は困ったなと首をかしげる。なぜか少女たちはやたらと俺の役に立ちたがるのだ。
まったく、どうして俺なんて奴のために役だとうとするのかね。
俺としては彼女たちには、時間があるなら世間の子供たちように、普通に遊んだりして欲しいのだが。やれやれ慕われ過ぎるっていうのも困ったもんだなぁ。
「あ、そうか、もしかして娯楽が足りないのかな?」
俺は唐突に理解する。
元の世界でのことを思い出せば、周りには娯楽が溢れていた。
だが、この世界には娯楽どころかオモチャすらないのだ。
これでは遊べと言っても、どうやって遊べば良いのか子供たちには分からないだろう。
「かと言って、そんな都合の良い娯楽やおもちゃがあるわけがないし・・・」
俺はそんな風に一瞬悩む。
だが、何となく大した用意なしにできる遊びを思い出したのである。
そう、それは・・・
「おままごとでもしてみるか?」
俺はそんな提案を少女たちにしたのであった。
「えっと、俺がお父さん役か・・・」
「はい」
「当然ですよね」
「満場一致だよ~」
・・・まぁ、そこは良いだろう。男は俺一人だしな。
だが・・・
「なんで3人ともお母さん役なんだ?」
そう、それから、
「えっと、しかも3人がお母さん役ってのが、あっさり決まり過ぎじゃないか?赤ん坊役とかお姉ちゃん役とかもあるだろうに・・・、何だかそういう役回りが検討すらされていない気がするんだが・・・」
「あ、あのご主人様。私どうしても一度お母さん役をやってみたいんです」
普段控えめなリュシアが珍しくそうはっきりと主張する。
「マサツグ様。わたしもお母さん役をやらして下さい。後生ですから」
普段元気なエリンが、極めて真剣な口調で訴える。
「シーもです。一生で一度のお願いです」
おい、普段伸ばしてる語尾が伸びてないぞ!?
「ま、まぁ、別にやりたい役をやったら良いと思うが・・・」
俺の言葉に、3人の少女は緊張が解けた表情になると満面の笑みを浮かべつつ、
「獣人の神様、ありがとうございます。リュシアは幸せ者です、ぐす」
「森の精霊様たちに感謝の舞を捧げなくちゃ」
「えへへーえへへー」
やれやれ、なにがそんなに嬉しいのやら。まぁ、ともかくこんな調子でおままごとが始まったのだった。話し合った結果、とりあえず、お父さん役の俺が仕事から帰宅したシーンからやるらしい。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「マサツグ様、おかえりなさい」
「おかえりなさ~い」
3人の信じられないくらいの美少女たちにいきなり出迎えられる。
ただ年端もいかない少女ばかりに迎えられると、なんだか悪いことをしている気がするのだが・・・。
特にリュシアとエリンはまだ12歳。シーは見た目15、6歳。しかも全員が本当にとびっきりの美人なのだ。日本にいた頃だったら完全にアウトだったろうなぁ・・・。
ちなみに3人とも俺が存在を教えたエプロンをつけている。なので文字通り幼妻にしか見えない。ますますいけない感じである。
「ご主人様、ご飯になさいますか? それともお風呂ですか?」
そんなことを思っていると、リュシアがニコリと微笑みながら俺に聞いてきた。なかなか本格的な奥さんっぷりである。まるで日頃から練習しているかのような自然な仕草さだ。とりあえず俺はご飯を注文してみる。
すると、リュシアが本当に食事をもって現れた。どうやら本格的なシチューのようだ。・・・えっと、なんでただのおままごとなのに、君たちはそんなに気合が入ってるんだ? なんだか外堀を埋められているような謎のプレッシャーを感じるのだが・・・。
「マサツグさま~、となり座って座ってー」
シーははしゃいだ様子で隣の椅子をポンポンと叩いた。シーのとなりは俺のために空けてくれているらしい。そしてまたその隣にはエリンが座っている。どうやら俺を挟んで座る予定らしい。
と、それだけではなかった。リュシアが低めのテーブルを挟んで向かいに座ったのである。実質全方向から挟まれるようになってしまった。
「そんなに俺の近くにいると暑苦しくないか? 別にもう少し離れてくれても良いんだぞ?」
俺は気を使ってそう言うのだが、不思議なことに逆に座る位置を俺にもたれかかるくらいの距離まで縮めるのであった。うーん、なぜだ・・・。
「はい、あーんして下さい。ご主人様」
だが、そんなことを考えているうちに、リュシアが俺に匙を差し出してきた。
ローテーブルを挟んでいるので、彼女は前かがみの姿勢になっている。
おかげで・・・その・・・目のやり場に困る!
そう、リュシアが前かがみになるものだから、胸元の隙間から、なんというか、ちょうど成長仕掛けの彼女の魅力的なあれやこれが、俺の視界に入ってしまうのである。
・・・というか、なんだか本当に絶妙の角度で見えてしまうのだが、なぜなのだろうか。俺が視線を逸らしても、その視線を追ってくるというか・・・。もちろん気のせいなんだろうが・・・。
「・・・えーっと、リュシア、食べさせてくれるのは嬉しいんだが、その・・・せめて隣に来てやってくれないか?」
「え、どうしてですか? わたし、正面からご主人様にあーんしたいです。さあ、いっぱい召し上がってください。リュシアのを・・・」
いつも素直なリュシアがなぜかこの時だけは全く俺の言うことを聞かないのであった。しかも、なんでちょっと艶(なまめ)かしい口調なんだよ。
俺は理性を総動員しながら、何とか平静を装い、少女の差し出すシチューを食べるのであった。
しばらくして、何とか理性との戦いに勝利し、シチューを食べ終えてホッとしていると、今度は隣に座るエリンが声をかけてきた。
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