第12話 聖剣の担い手 後編
「・・・え?」
「ふーん、まあ悪くないかな」
俺はそう言ってミヤモトから取り上げた聖剣を、ヒュンヒュンという風きり音を立てて、やすやすと振るう。
「へあ・・・?」
「お、なんか魔力を込めると黄金色と青色が混じり始めたぞ? ちょっとブゥゥゥンっていう振動音みたいなのもするんだな」
「な、な、な、・・・」
「これで遠くへ飛ばすイメージで振ってみれば・・・。よっと!」
俺が魔力を帯びた剣を遠くに見える山に向かってひと振りすると、その山の山頂が吹き飛んで消滅した。なるほど大した威力だ。
「ん? どうしたんだ、ミヤモト?」
「なんで持てるんだよおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?」
そうミヤモトは絶叫したのである。
何やら絶望した顔をしており、そのうえ涙を流し、鼻水まで垂らすというひどい有様だ。
一体どうしたってんだ?
「そ、それは俺だけしか使えない剣のはずだぞ!! し、しかも俺ですらまだ満足に扱えてなかったから修行してるところだったのに、何を楽々振り回してやがる! し、しかも魔力伝導まであっさりと成功させるなんて、てめええええええええええ、どういうことだあああああああああああああああ、どんなズルをしたああああああああああああ」
「そう言われてもなあ。逆になんで使えないんだ? 簡単だぞ?」
そう言って俺はもう一度剣を軽々と振ってみる。
「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいい」とミヤモトがまたしても金切り声を上げた。
一方で、俺のその剣技を見ていた少女たちから感嘆の声が上がる。
「ご主人様、すごい・・・。太刀筋が全然見えません」
「聖剣をいきなり使いこなすなんて・・・。もしかしてマサツグ様は勇者様でもあったんですか!」
「勇者どころじゃないよー、神様にだってなれるんだからー」
「ち、ちくしょう! 返せ! 返せよ! 俺の聖剣を返せ!!」
そう言ってミヤモトが泣きじゃくりながら俺に迫ってくる。
「いや、もちろん返すさ。ふう、まるで俺が弱い者イジメをしたみたいに思わるじゃないか。そうだ、ちゃんと説明しておこうじゃない。皆さん! 俺はいじめをしてるわけじゃありませんよ!!」
俺はそう言って周りにイジメではないと大声で説明をする。
「や、やめろよ! 俺はイジメなんて受けてる訳じゃねえ!い、いいから返せよ!」
「だからそう言ってるんだ。いじめなんて最低の行為を俺はしてる訳じゃないから。周りの人たちにも言っておかないと。皆さん! 断じて俺はミヤモト君をイジメて泣かせた訳ではありませんからね!」
「うわあ! やめろよおお!!」と俺を制止しようとしてくるミヤモト。
だが、俺は諦めずに「イジメではない」と念入りに宣伝する。
ふう、これくらいやっておけば勘違いはされないだろう。
「うう、ぐす、ぐす・・・許さねえ・・・許さねえぞ・・・マサツグ・・・。俺に公衆の面前で恥をかかせやがってええええ」
「別にお前の許しなんかいらん。だいたい何でお前みたいなゴミに許される必要があるんだ? わけのわからないことを言ってないで、この剣を持ってさっさと城に帰れ」
俺はそう言って黄金の聖剣「人類の守護剣」を差し出す。
それをミヤモトはひったくるように受け取った。
が、しかし・・・!
「ぐがああああああああああああああ!! 重てえええええええええええええええ!! 手、手が千切れるうううううううううううううううううううう!!!!!!!」
突然、ミヤモトが叫び声を上げたのである。
「何言ってるんだ? こんなに軽いじゃないか?」
俺はそう言って、剣に押しつぶされそうになっているミヤモトから、軽々と聖剣を取り上げた。
「う、うぅ~、ど、どうじでええええ」
ミヤモトが鬱陶しいすすり泣きの声を上げる。
「も、もしかしてご主人様こそが聖剣の使い手なんじゃないですか?」
と、そんなことを突然リュシアが口にした。
ん? どういうことだ?
「有名なおとぎ話ですので聞いたことがあります。聖剣は聖剣に選定された“担い手”にしか扱えません。ただ、担い手が近くにいない場合、他人に運ばせるために、あえて台座から抜かれることがあるとか」
「ん?要するに俺が本来の聖剣に選ばれた勇者で、ミヤモトは俺に剣を渡すために選ばれた、ただの一般人だった、ってことか?」
「そのとおりです。先ほどの剣技を見ても、そのことは明らかかと」
そう言ってリュシアは尊敬の目で俺の方を見上げてくる。
エリンもシーも「すごい!」とか「やっぱりそうだったのね~」とか言っている。
「うわあああああああああ!!! そ、そんなことあるわけねええええええええ! こ、この俺を差し置いて、マサツグごときが勇者である訳がねええええええええええ!!」
ミヤモトが唾を撒き散らしながら必死に絶叫する。
「いや、そのとおりさ」
「ご主人様?」
リュシアが可愛らしく首をかしげる様子を見ながら、俺は口を開いた。
「俺は勇者なんて何の興味もない。そんなしょうもない役目よりも、お前たちを立派に育てることが・・・孤児院をしっかりと経営する方が重要なんだ。別に聖剣だっていらないし」
そう、俺にとっては勇者など何ら価値もない。そんなものはやりたいやつがやれば良いのだ。
俺にとっては、リュシアのような親を失った子供たちを立派なレディにすることのほうが、ずっと大切な役目なのである。
だが、俺がそう言うと、リュシアたちは目を潤ませて俺を見てきた。
「ご、ご主人様・・・私たちのことをそこまで・・・」
「わ、わたしもマサツグ様には傍にいて欲しいです!」
「シーもマサツグさんとずーっと一緒にいる~」
俺は彼女たちの頭を一人ずつ撫でてやる。
「ほれ、そういうことだからコイツは返すぞ? ここに置いておくからさっさともって帰れ、偽勇者君」
俺はそう言うと、道路の真ん中に黄金の聖剣を放置するのであった。
「うう、ちくしょう・・・ちくしょう・・・許さねえ・・・許さねえ・・・」
ミヤモトはそう言いながら地面に捨てられた聖剣を必死に持ち上げようとするが、1ミリも動かせないようだ。
かと言って、俺も別に勇者になど興味なく、聖剣にも必要がないので、どうしようもない。
さっさと踵(きびす)を返した。
「さ、帰ろう。っていうか聖剣とかより、お前たちが買った服のほうが大事だ。せっかく可愛い服を買ったんだから、帰ったら見せてくれよ?」
俺がそう言うと、少女たちは後ろのミヤモトのことなど一瞬で忘却したらしく、俺に嬉々とした様子で話しかけてきた。
「え、えへへ、ご主人様に気に入ってもらえるといいな・・・」
「わ、わたしもマサツグ様に気に入ってもらえるように頑張りました」
「シーもねー、可愛いかったらギューッてしてから褒めて欲しいなー」
「えー!? シーさんだけずるいですよー。わたしもご主人様にぎゅーして欲しいです」
「わたしもー」
こんな調子で俺たちは家路に着いたのである。
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