第10話 可愛い子にはショッピング
「ご主人様、どこに行くんですか?」
「マサツグ様と一緒ならどこでもいいんですけどね」
「シーもマサツグさんとならどこだって良いよ~?」
右腕にリュシア、左腕にエリンが抱きつくようにして並んで歩いており、シーは後ろから俺の首に抱きついているような状況だ。
まったく、歩きづらくて困ったものである。俺はやんわりと注意してみる。
「くっつきすぎで歩きづらくないか? もうちょっと離れてもいいんだぞ?」
だが、全く逆効果だったらしく、
「そんな、はぐれたら大変ですから!」
そう言って、ぎゅーっとリュシアが腕を一層強く抱きしめた。
「わ、わたしもマサツグ様と近くが一番好きですから!」
エリンも俺の腕をかき抱くようにする。
「重かったかなー? じゃあ、半分霊体になって体重を軽くするからねー」
そう言ってシーもますます俺の背中に身体を密着させた。
うーん、困ったもんだなあ。歩きづらいのは俺が我慢すれば済むんだが、周りの男どもの目が怖いんだよなあ。別に俺の女って訳じゃないから、勘違いなんだけどなあ。確かに少しは好かれてはいるけどさ。その上これだけの美少女たちだからなあ。はあ、だからそんなに嫉妬の目で見ないで欲しいぜ。勘違いなんだからさあ。
「ほら、周りからもジロジロ見られてるみたいだ。お前たちも恥ずかしいだろう? それに、こんなふうに余りくっついていると、俺の女だって勘違いされてしまうぞ? だから少し離れたほうが良いんじゃないか?」
俺はもう一度やんわりと注意してみる。
だが、少女たちは全く離れる気配がなく、むしろ一層くっついてくるのであった。
「え、えへへ。そ、そんな風に見られちゃいますかね? ご、ご主人様の女だって見えちゃいますかね?」
そう言ってリュシアは俺の腕に額をグリグリと押し付ける。
「それって公認ってことですよね。私がもうマサツグ様に売約済みってことですよね」
エリンもよく分からないことを言って、俺の腕に頬をすりすりとしてくる。
「シーはもとからマサツグさんの物だから問題ないねー」
そう言ってシーが自分の頬を俺の頬にぴたっとくっつけてくる。
やれやれ、これだけ言っても無駄となると、しょうがないか。周囲の視線が痛いが、不本意ながら我慢するとしようか。
「まあいいか。とりあえず今日は服を買おうかと思ってたんだ。みんなの分も買おうと思うから好きなのを選んでくれ。ああ、ここだここだ」
俺たちはそんな会話をしながら、街の一角にある服屋へと入っていったのだった。
「ご、ご主人様、あの、入るお店を間違えいらっしゃらないでしょうか? 何だかとっても高そうな服ばっかりですよ? ・・・あ、そうか、ご主人様が着られる服を買われるんですね?」
「いやいや、何を言ってるんだ。お前たちの服を買いに来たに決まってるだろう? さ、好きなものを選んでいいんだぞ?」
「ま、まさか!? こんな良い服を着る訳には行きません」
「そ、そうですよ、マサツグ様。孤児である私たちなどにお金を使われる必要ありません」
「シーも普通の格好でいいよー?」
「いやいや、お前たちみたいな美人が、着飾らないなんてもったいないだろう。いいから好きなのを選べ。それぞれ2,3着は購入するからな?」
「か、可愛いって・・・。で、でも、本当に良いんでしょうか? まるで夢みたいです・・・」
「お、王女やってる時も、こんなに贅沢なことしたことなかったです」
「シー、何もしてないけどホントにいいのー?」
「大丈夫だって言ってるだろう。ほら、早く選べ」
俺がそう言うとやっと信じたのか、少女たちは自分の好みの服を探して店内を物色し始めた。目の色が変わるあたり、やはり女の子だなぁと思う。
「あ、あのお客様、失礼ですが、その・・・」
と、そんな風に少女たちを見守っていたら、店長と思われるおっさんが近づいてきて口を開いた。
ふむ、まあなかなか高級そうな店だったからな。こういう声が掛かることは想定済みだ。
おそらく持ち合わせを心配しているのだろう。
ったく、少女たちが気持ちよく服を選んでるっていうのに、無粋なやつだ。
「ふん、客に対して無礼なことを言うな。ほらよ」
俺はそう言うのと同時に、ピンッ! と、あるものを親指ではじいて店長の額にぶつける。
「ぐあっ、なっ、何を・・・。・・・ああっ!?」
おっさんが目を剥いて床に落ちた白色の何かと俺の顔を交互に見た。
どうやら、おれがそれを持っていることが信じられないらしいな。
「ま、まさか、そんな・・・これは白貨・・・」
「なんだ?何か言うことがあるんじゃないのか?」
俺の言葉におっさんはすぐに直立不動の姿勢を取ると、すごい勢いで頭を下げた。
「も、申し訳ございませんでした! まさか白貨を所有されるほどのお客様とは思いもせず・・・」
「ふむ、なんだそれだけか? あんな対応をしておいて、その侘びがそれだけとはな」
俺の言葉におっさんは顔色を真っ青を通り越して白色にすると、地面に土下座すると床に頭をこすりつけて謝罪の言葉を口にした。
「ほ、本当に申し訳ございませんでした!大変な無礼を働いてしまいました! ど、どうかお許しください!」
「ふん、別に謝罪が欲しいわけじゃないさ。俺個人のことではなく、貧乏人を差別しようとするお前の態度が許せなかっただけだ。まあ今回は許してやる。今後は客に対する態度を改めることだ」
「は、はいいい、申し訳ありませんでした」
そう言って半泣きで謝るのであった。
そんな下らないやりとりをしている間に、リュシアが服を見繕って戻ってきた。
「あの、これなんてどうでしょうか? ご主人様の好みを伺いたいのですが」
そう言って少し照れながら、白のブラウスと黒のブラウスを持ってきた。
「俺の好みなんて気にする必要はないぞ? リュシアの好みで選べばいい」
だが、リュシアは俺の言葉に首を振る。
「い、いえ・・・、それだと意味がないと言いますか・・・。私が服を見せたい相手は決まっていると言いますかゴニョゴニョ・・・」
「うん? よくわからないが、強いて言うなら、白の方がリュシアの栗色の髪が映えるんじゃないか?」
正直、凄まじい美人だからどっちも最高に似合うとは思うが。
「そ、そうですかっ!? じゃ、じゃあ、白にします! えへへ」
リュシアはたちまちニヤケ顔になると、白い方のブラウスをまるで宝物のように、大切そうに抱きしめるのであった。
「あ、あのー、マサツグ様、わたしも選んで頂きたいんですが・・・」
そう言ってエリンも、赤色と緑色のフード付きの少しノーブルっぽい服を持ってくる。
「エリンもか。なんだ? 自分の好きな方を選んでいいんだぞ?」
「いえ・・・その、出来ればマサツグ様の好きな色を着ていたいといいますか、いっそ服ごと私のことを好きになって欲しいといいますか・・・」
「? よくわからんが、緑色の方が似合うんじゃないか? エルフだけあって、やっぱり緑色がよく合っていて可愛いよな」
俺の言葉に、エリンは真っ赤になったあと、ニコニコと微笑む。
「か、カワイイ! え、えへへ、じゃ、じゃあ私は緑色にしよっと!」
そう言って少女は緑色のワンピースを愛おしそうに頬ずりするのであった。
「わたしもー、選んで選んでー」
そう言うとシーも水色と黄色の西洋風の巫女服を持ってくる。
「どうして俺に選ばそうとするかねえ・・・」
「はやくはやくー」
「うーん、そうだなあ、シーは水色だろうなあ。髪や瞳の色と合ってるから、そっちのほうがよく似合うと思うぞ?」
「ほ、ほんとー、うへへー」
シーはだらしない顔になって水色の巫女服を早速着出すのであった。おい、嬉しがりすぎだ。まだ精算が終わってないぞ。
最後に俺の服も適当に購入して、買い物は終了したのであった。やれやれ、絶世の美少女達の買い物の付き添いとはいえ、やっぱり疲れるもんだな。
服屋の外に出た俺たちは帰りの途へと着いた。
だが、そんな時、背後から俺に声が掛かったのである。
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