第9話 紙くらい簡単に作れるだろ?

さて、俺は前々から孤児院の安定した収入源を作ろうと準備をしてきている。臨時収入としては色々入手してはいるのだが、やはり安定した収入源確保が大事だ。


その第1弾が日の目を見ようとしていた。そう、1週間ほど前から作り始めていた紙が完成したのである。


「すごいです! ご主人様が言ってたとおり、植物の茎から紙が完成しましたね!」


「これ、もしかしたらとんでもないことなんじゃないですか・・・。今までの産業構造が激変する可能性がありますよ・・・」


「異世界の技術だとしても、こうやってすぐに応用しちゃうのは本当にすごいわね~」


「大したことじゃないさ」

俺は首を振って否定する。


「は~。ご主人様は謙遜しすぎですね。もう、これがどれだけすごいことかご理解いただきたいものです!」


「そうですよ。どう見ても羊皮紙より紙面が綺麗ですし、しかも安価だなんて・・・。ある種の革命ですよ」


「そうよねー。それに、これなら庶民にも紙が行き渡るからー、生活様式が一変する可能性だってあるしー」


「そんなに大騒ぎすることじゃないさ。それよりも商品作りを進めよう」


そう言うと、彼女たちは、「もう!」と頬を膨らますのであった。俺はそれを放っておいて、さらさらとその紙に絵を描き出し、また文字を書いてゆく。いわゆる絵本を作っているのである。


俺はとりあえず1ページ作ってみて、「どうかな?」と彼女たちに見せてみた。ちなみに文字や言語はこの世界に召還された時に自然に使えるようになっている。


「こ、これは!?」


「絵!? これ、ご主人様が描いたんですよね!?」


「ふわー、なんだかスゴイね~、うまく特徴を捉えて描いてあるっていうか~」


「いや、大したもんじゃない。下手くそだろう?」


俺に絵心があるとは思えないしな。


「とんでもないですよ! 今まで見たことのある絵とは全然違いますけど・・・でも、とても身近に感じるスゴイ絵です!」


「本当にそうです。デフォルメされているのに、なにが描いてあるのかとてもよくわかりますし、なんだか親しみが持てる不思議な絵です。これがスゴイものだということはエルフであるわたしでも分かりますよ!!」


「紙を作り出しただけでもスゴイのに、マサツグさんって、こういう芸術の方面も才能があるんだねー」


「そんな大したもんじゃないさ。それよりもこれは単に1ページだけだが、本当は何ページかに渡る読み物になるんだ。例えばもう1ページ足してみて・・・ほら、1ページ目で扉を開いた人が、2ページ目で扉から溢れてきた荷物に押しつぶされてるだろう? こうやってストーリーを見せるんだ。あと足りない部分は説明文を入れる。どうだ、おもしろいだろう?」


俺の説明に少女たちが驚いた表情を浮かべる。


「す、凄すぎます・・・。異世界では珍しい物ではないなのかもしれませんが・・・それでもそれを、この世界で当然のように再現されてしまわれるなんて」


「それに何より絵と字がとっても上手です。これなら十分売り物になりますよ。その道何十年の職人さんが作った商品と比べても全く遜色(そんしょく)ありません!」


「本当よね~。この国だけじゃなくて他の国でも売れそうなくらいよー」


あ、でも、とリュシアが不安そうな顔をする。


「どんな物語を書くのがいいんでしょうか? わたし、あまりそういうのを考えるのは苦手で・・・」


「わ、わたしもです。なんかこう、読んでて面白い感じにしないといけないのは分かるのですが・・・」


「わたしも頭を使うのは苦手なの~。マサツグさんー、どーしよー?」


そう言って不安そうな表情で俺の方を見た。


「難しくなんてないさ。今身近にある物語を書けばいいんだよ。例えば、悪い魔王や怪物を倒す勇者の話やら、そういうのでいいんだ」


「!? なるほど、難しくひねる必要はないんですね! さすがご主人様です。そのほうが世間一般に受け入れやすいんですね!」


「マサツグ様のおっしゃるとおり、それなら幾らでも題材がありますよ!」


「さすが、目の付け所が違うね~。今ある物語を写していくだけなら、ほとんど労力を使わずに絵本を作ることができるんだ~」


「そんなに大したことじゃないさ。さあ、いつまでも話していても仕方ない。早速絵本作りに取り掛かろう」


「「「はい!」」」


さて、彼女たちにはまだ難しいだろうから言わなかったが、実は販路をどう拡大するのか、という問題がある。さすがにこのレベルになると、彼女たちに考えさせるのは酷だ。相談できる範囲を超えてしまっているだろう。これは俺がひとり孤独に悩まないといけないレベルの課題だ。つらいが、仕方ない。できる人間がやるしかないのだ。だがまあ、これについても俺に少しばかり作戦がある。それをやってみることにしよう。


こうして俺たちの絵本作り・・・孤児院の収入を支える商品作りが始まったのである。


そして数日後、ある店の前に人だかりが出来ていた。そこは俺たちがとりあえず作った絵本100部が置いてある小売の店であった。販売を小金で近くの店に委託したのだ。


ちなみに俺たちは売れ行きがどうなるか気になって、こうして少し離れた宿屋の2階から見守っているというわけだ。


価格は1000ギエルと少し高めに設定したが、初めて絵本を見た人たちが物珍しさに手に取り、それが瞬く間に評判になって人が押し寄せはじめたのである。


「すごいです! ご主人様が言ってたとおり、物凄い人気ですね!!」


「まさか初日からあんなに行列が出来るなんて、マサツグ様には最初からわかっていたんですね」


「未来予知か何かみたいよねー。本当にすごいわー」


「いや、これくらいの評判になることは最初から俺の予想通りだ。別に驚くには値しないさ。むしろ、俺に興味があるのはこの後だな」


俺の言葉に少女たちは驚きの表情を浮かべる。


「えっ、まだこの後があるんですか!? い、一体なんなんですか!?」


「あれだけ成功したのに、マサツグ様にとってはまだ始まりに過ぎないんですか!?」


「むしろ、この成功もマサツグさんにとっては当然のことって感じかしら~。はー、一体マサツグさんの目には何が見えてるのかしら。教えて欲しいところだわ~」


「これから何が起こるのかは秘密だ。後々のお楽しみってことにしようじゃないか。さて、とりあえず売れ行きの状況は分かったから、今日はもう自由時間でいいだろう。みんな好きにしていいぞ。夜には孤児院に戻ってくるようにな」


俺がそういって解散を宣言すると、少女たちは「はーい、分かりました」、と言う。だが、なぜか俺のもとを離れようとしない。


「いや、好きにしていいんだが・・・」


「だから、好きにしています」


「わたし、マサツグ様と一緒にいられればそれでいいです」


「シーもね~、マサツグさんとゆっくりしていたいな~」


やれやれ。だが、あまり俺に依存しすぎるのも良くないんだよなあ


「あまり俺に依存しすぎるのもよくないぞ? 今は俺しか男がいないから好意を持ってくれているのかもしれないが、将来的にはきっと俺のことなんて忘れて別の男性を好きになるんだからな?」


俺はそういって少し距離を取ろうとするが・・・。


「そんなことありえません! わたし、ご主人様がいればそれでいいです! 他には何もいりませんから!」


「わたしもです! マサツグ様以外のことなんて考えたこともありません!」


「シーもねー、ずーっと一緒にいたいなー」


うーん、猛反撃を受けてしまった。やれやれ、こうまで言われてしまったらしょうがないか。困ったもんだなあ・・・。


「そうか・・・。まぁ自由にするといい。俺はちょっと買い物に行ってくるが・・・」


「わたしも行きます!」


「わ、私もです!」


「シーもねー」


やれやれ。なかなか一人になることができないな。色々考えたいこともあるんだがなあ。

ともかく、俺たちはこうして街に繰り出すことになったのであった。

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