第6話 VS.魔王軍!
「なん・・だと・・? 強力な魔力を感じたから暗殺しようとして放った魔法が・・・私の不意うちに気づいただと! し、しかも、私の最大魔法をあれほどあっさりと打ち消してしまうだなんて! 人間にこれほどの使い手がいたとは!? クソッ! 聞いていないぞ!!」
それは上空20メートルほどのところに浮かんでいた。
シルエットは赤髪の17,8くらいに見える美しい少女だが、額に角を生やし、蝙蝠のような羽を動かしている。そして悪魔のような尻尾を持っていた。そういえば王様が言っていた気がするな。人間族と敵対しているという魔族だ。
・・・が、何にしてもあの程度で驚かれていては困る。俺は20メートルの距離を一瞬で0にした。単なるジャンプだけどな。
「な、なんだと!? この距離を一瞬で!!一体どんな魔法を使ったというんだ!!」
「すごい、ご主人様、姿が見えなくなったと思ったら、もうあんな所に」
「だめ、全然目で追いきれない!」
「ぐわああああ!! だ、ダメだ、私ではとても・・・」
俺が2,3つ攻撃を加えると、あっけなく、そう言いながらきりもみ回転して、その魔族は地上へ落下していった。頭から激突し虫の息のようだが、生きてはいるようだ。
まぁ、手加減したからな。本気でやっていればそれこそ瞬殺だっただろう。
魔族とは言え、女だったからどうしても本気を出すことができなかったのだ。優しいわけではない。単に甘ちゃんなのだ。
「す、すごい、ご主人様、あの魔族を簡単に瞬殺しちゃった」
「私たちだったら絶対勝てない相手を、手を抜きながら一瞬で・・・。まだまだマサツグ様には遠く及ばないってことか~」
「うう・・・」
「気がついたか」
「ぐ・・・。こ、これほどの戦力が人間側にいるとは・・・。なぜ貴様ほどの人間が、こんなみすぼらしい場所にいるんだ・・・。お前ほどの実力者なら、我々だったら魔王国の全軍を統べる魔族の5人のトップ、5魔皇のうちの一人に迎え入れるところだというのに。5魔皇になれば、城の3つや4つは与えられるうえに、名誉も金銀財宝も、何もかも思いのままだ。お前にはその資格が十分にある。ああ、そうだ、先日魔皇の座が一枠空いたんだったな。なあ、お前・・・ああ、マサツグというのか。マサツグよ、いっそ、我々魔族側に来て魔皇にならないか? ・・・いや、けっして馬鹿な思いつきじゃない。私は本気だ。お前の実力を正しく評価しない人間側にいても仕方ないだろう? 我々の元に来て、その実力に見合った待遇を受けるべきだ。なあ、どうだ? 私はお前を新たな魔皇として迎え入れたいんだ。新たな魔皇に人間を迎えるという事については、色々意見も出るだろうが、それはこの5魔皇が一人、紅き鮮血のミラが命をかけて押さえ込もう。どうだ、ぜひ来てくれないか? お前さえ来てくれれば人間など恐るるに足らん。この戦争勝ったも同然だ!!」
「興味ないな」
俺は率直に返事をする。
「く、確かに5魔皇の地位では足りなかったかもしれないな。お前ほどの実力者だ。ならば、5魔皇を裏で束ね、魔王の側近中の側近と言われる闇の存在、アークデーモンロードの地位をやろう。それでどうだ? 魔王様には私が命をかけて交渉しよう。世界の半分を手に入れたも同然の地位だが、お前にはふさわしい地位だろう」
「そんなもんいらん」
「く、ぐぐぐ。だが、これ以上は魔王様になってもらうしかないが、さすがにそれは難しい・・・。そうだ! 魔族に伝わる伝説の禁呪が記された呪文書(スクロール)があるんだ。それをやろう。今まで使用できた者はいないが、マサツグ・・・マサツグ様なら使用できるはずだ。魔王家の最奥に安置されているということだが、私が命をかけて入手してこよう」
「だからいらんって。魔王の側近とかなんとか、やってるほど暇じゃないんだ」
俺はこの孤児院をちゃんと経営しなちゃならないからなあ。遊んでる暇はない。
「ううう、でもお前をこちら側に引き込まないと我々の敗北が確定してしまう。そ、そうだ! せめて条約を締結してくれないか!?」
「断る」
面倒そうだからな。
「そ、そこを何とか頼む! そ、そうだ、今手持ちが結構あるんだ。これで何とか交渉だけでもさせてくれないか?」
そう言ってどこからか魔族ミラは貨幣の入った袋を取り出し、目の前に貨幣を広げた。
白貨50枚。50,000,000ギエルのようだ。
「面倒だなあ。まあ、言うだけならいいぞ?」
「あ、ありがとうございます! あの、私たちはこれからも我が魔王国に攻め込んでくる人間族に対して報復戦争を仕掛けて行かざるを得ないのです。それで、場合によっては占領して統治下に置くこともあると思います。その際に、せめてマサツグ様には中立でいてほしいんです。こちらの味方にとは言いませんから、せめて不可侵条約を締結していただけないでしょうか?」
「なら、別に条約締結は不要だろう。俺はお前たちが俺たちに害をなそうとしない限り手を出すつもりはないからな。さ、話は終わりか?」
「お待ちください! 何とか条約を締結してください。私の命を奪ってもかまいません。条約がなければ、あなたほどの実力を持つ人間を、我ら魔族はどうしても放っておくわけにはいかないのです!」
はぁ、しょうがないなあ。なるほど、どうやら強すぎることで逆に放っておけない存在になってしまっていたようだ。条約を結ぶなど面倒ではあるが、逆に締結しなければもっと面倒なことになりそうだ。俺は静かに孤児院を運営したいだけなのに、なまじ規格外の力を持ってしまったことで周囲が放っておいてくれないらしい。やれやれだな。
「分かった分かった。なら条約書をもってこい」
「ありがとうございます! ありがとうございます! あの、これは心ばかりのお礼です」
そう言って一つのポーチのようなものを差し出す。どうやらアイテムボックスと言われる、1万個のアイテムが収容できる魔法のポーチとのことである。普通は10個程度のものがほとんどらしく、1万ともなるとこの世界でも2つあるかどうかというレベルの貴重品とのことだ。
「もちろん、後日改めて正式なお礼の品は持参させて頂きます。今私の手持ちで一番貴重なものといえばそれくらいで・・・お許し下さい。あと、調印者が正式にお伺いいたしますので、よろしくお願い致します」
「調印者?」
「はい、もちろん魔王様です。あ、当然ですがこちらから頭を下げてお願いしていることですので、マサツグ様は何もする必要はありません。こちらで全て取り計らわせて頂きます。訪問する日程は改めてお知らせさせて頂きますので」
はぁ、面倒だなあ。俺には孤児院の経営があるから暇なんて無いっていうのに、なぜか魔族のトップ・・・すなわちこの世界ではほぼ一番偉い存在、魔王と面会をすることになってしまったらしい。面倒だが、まあ今回は犬にでも噛まれたと思ってあきらめるしかないか。しょうがないなあ。
「それではまた参りますので!」と、ミラは上機嫌で飛び去っていった。
「ご、ご主人様、すごいです。まさか魔王と条約を結ぶなんて・・・。魔族と対等な条約を結ぶのは、きっとご主人様が初めての快挙ですよ!」
「しかも、魔王みずから調印をお願いしに足を運んでくるなんて聞いたことがありません。前代未聞です! マサツグ様は本当にすごい方です!」
「たいしたことじゃないさ。いくら強いからって威張れるようなことじゃないからね。そんなことより孤児院の運営のほうがよっぽど難しいよ。さあ、そんなことよりも、井戸に水を汲みに行くんだろう?一緒に行こう」
俺の言葉に彼女たちは俺をキラキラとした眼差しで見たあと、「はい!」と元気よく返事をしたのであった。
だが、俺たちがいざ共同井戸に向かおうとした時、どこからか「まって~」という、どこかふわふわとした女性の声が聞こえて来たのである。
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