第5話 ステータスオープン!
さて、紙作りを行った日、その日は結局トリタのバカとバカ女のせいで作業はそこまでとなったので、夕食を作って食べた後、多少雑談してから就寝となったのである。
ところで、俺たちは一緒のベッドで寝ている。最初はばらばらで寝ていたのだが、実はリュシアも、エリンも、とても一人で眠れるような精神状態ではなかったので、仕方なくこうして一緒に眠っているのである。
「うう、ぐす、お父さん・・・お母さん・・・ご主人様、ご主人様、どこに行っちゃったんですか・・・真っ暗です、リュシアを一人にしないで、もう一人はいやです・・・」
「大丈夫か? リュシア。俺ならここにいるぞ?」
「うう、ぐす・・・ん、あ、ご主人様・・・。良かった、ご主人様、いてくれた」
リュシアは一瞬目覚めて俺の顔を確認すると、安心したのか、俺の腕にしがみつくように丸まって、今度は安心して寝息を立て始めた。
最初はばらばら眠っていた時は、一晩中うなされていて夜泣きしていたのだ。俺がこうして一緒に寝てやることで、何とか安心するらしい。
また眉根が寄り始めたが、俺が頭を撫でてやると、やはり安心したように穏やかな表情になった。
彼女のトラウマが癒えるまでは俺が必要そうだ。
と、そんなことを考えていると、ガバッと突然エリンが上半身を起こして枕元を探るような仕草を見せた。
護身用ナイフを探しているのだが、当然そんなものは置かれていない。取り上げているからだ。彼女の様子を見かねて俺が「エリン」と声を掛けると、彼女は俺に抱き付いて、小さな体を震わせる。故郷の森を焼かれ、同胞を殺戮され、刺客に命を狙われた境遇から、彼女は定期的に目覚めては見えない暗殺者の影に怯えるのだ。
なお、この時のエリンは恐慌状態で、たとえ誰であっても近づく者に対して無意識に攻撃を仕掛けるような危険な状態なのだが、なぜか俺のことだけは味方だと思ってくれているらしく、こうして抱き付いて来るのである。
「マサツグ様、マサツグ様、マサツグ様、マサツグ様ぁ・・・」
俺だけが心の支えなのだろう。名前を連呼して精神を必死に保とうとしている。
「大丈夫だぞ、エリン。俺がずっとそばで守っていてやるからな?だから怖くないぞ?」
俺が言葉を掛けると、エリンは名前を連呼するのをピタリと止める。そして嘘のように徐々に体の震えもおさまっていった。そして、やがて落ち着いたのか、俺の腕をギュッと抱え込むようにすると、その内スゥスゥと穏やかな寝息を立て始めるのだった。
ふう、エリンにもまだ俺が必要みたいだな。
小さく息を吐くと、俺もそのままウトウトとし始める。その、ぼーっとした頭で考える。
まだ小さな孤児院ではあるが、彼女たちのためにも俺が頑張らなくてはならない。俺が頑張らなければ、彼女たちは再び不幸に見舞われることだろう。そうならないためにも、彼女たちが立派に巣立てるように、しっかりと面倒をみてやろう。
それにしても綺麗な子たちである。まだ幼いからさすがに邪(よこしま)な感情はわかないが、将来絶対に絶世の美女になるだろう。彼女たちの夫になる者は、大変な幸福に違いない。俺が夫になるようなことは・・・ふふふ、まさかな。今は好意をよせてくれているみたいだが、いわゆる、子供の頃のいい思い出、というやつになるんだろう。俺よりいい男なんて幾らでもいるしな。・・・うーん、それにしても本当に美人だなあ。TVでも見たことないぞ? まったく、こんな娘たちに愛をささげられることになる奴がうらやましいぜ。俺はそんなことを考えつつ、眠りについたのだった。
そして、いつも通りの翌朝を迎える。
「ご主人様、これからエリンちゃんと一緒に共同井戸に水を汲んで来ようと思いますので、少し外出します」
「そうか、もう無くなっちゃったか。俺も行くよ。二人だけじゃ重いだろう?」
「いえ、実はご主人様に病気を治してもらってから、何だか力がどんどん湧いて来るみたいなんです。きっと、これもご主人様のおかげですね!」
「へ?」
俺は首をかしげて、俺の数少ないスキルを発動させる。
「ステータスオープン!」
名前 リュシア=オールドクライン
年齢・性別 12歳・女
職業 孤児
種族 獣人(犬耳族)
LV 3
HP 720(+260)
MP 0(+0)
筋力 240(+80)
知能 90(+30)
素早さ 480(+160)
運 180(+60)
『守り(改)』
効果:スキル保持者の保護対象者である場合、全ステータスに大幅な補正。あらゆる状態異常無効。自動回復(大)
状態異常無効・・・死の呪い(全ステータス1/10及びHP自動減少)を無効化済み。
ちょっ! 強すぎる!! 前に試しで見た一般人のステータスは、たしかHP100の筋力40ぐらいだったぞ? リュシアは補正なしでも強いみたいだが、俺のスキルのせいでほとんど人外レベルになってるじゃないか。超優秀だな。
「エリンちゃんも、なぜかご主人様のそばにいると、どんどん魔力が上がるって言ってました。おかげで、高位の風魔法を連続で使用できるようになったから、荷物を浮遊魔法で浮かせて運んでるみたいですよ?」
「は?」
俺はもう一度、「ステータスオープン」と念じる。
名前 エリン=グラスウッド
年齢・性別 12歳・女
職業 孤児
種族 ハイエルフ
LV 5
HP 360(+120)
MP 999(+333)
筋力 30(+10)
知能 210(+70)
素早さ 120(+40)
運 150(+50)
『守り(改)』
効果:スキル保持者の保護対象者である場合、全ステータスに大幅な補正。あらゆる状態異常無効。自動回復(大)
つっよ! やばい、魔法特化型か。MP999とか、強すぎるうえにかっこよすぎる! エリンもやはり、もともとのステータスがある程度優秀だったところに、俺のスキルの効果が加わって、化け物じみた強さになっているようだ。
「2人ともかなり強いな・・・。どれくらい強いんだろうか・・・」
「はい、ご主人様。では私から! はぁ!!」
と、急にリュシアが何もない空間に正拳突きを放った。次の瞬間、庭の片隅にあった大きな岩が耳をつんざくような爆音を上げながら、いきなり爆散した。
「空断拳(くうだんけん)です! 拳(こぶし)に気をためて一気に放つ獣人族の秘奥義です! 相手は死にます!!」
「次は私ですね! 風魔法奥義『圧潰!』」
やはり庭の片隅にあった、大きな岩が急にギチギチという悲鳴を上げてひしゃげ始めた。数秒後にはサイコロほどの大きさに縮小してしまっていた。
「対象を周りの空気ごと極限まで圧縮する技です。相手は死にます!」
「ご主人様と一緒にいるおかげで、何だかどんどん強くなっている気がします。ありがとうございます、ご主人様!」
「私もリュシアちゃんと一緒です。マサツグ様と一緒にいると、どんどん魔法レベルが上がっていっている気がします。全てマサツグ様のおかげです! ありがとうございます!」
「うーん、すごいな・・・。ん? 危ない!」
俺の体が肉眼では捉えられないほどの速度で動き、少女たちに迫っていた炎の塊りを造作もなく消し去った。
「す、すみません、ご主人様。まったく見えませんでした」
「わ、私もです。マサツグ様がいなければ死んでいました。ありがとうございます!」
「まだまだだな。敵はいつ襲ってくるかも分からない。攻撃面だけじゃなく、気配を察知したりする防御面も今後は磨いていくんだ」
「は、はい、了解です!」
「分かりました、マサツグ様!」
そう言って、キラキラとした目で俺を見上げるのだった。
だが、今は戦闘中というやつで、そんなことを気にしている暇はない。
と、上空から声が聞こえてきた。
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