第4話 商品を作ろう!
「寄付を待ってるだけじゃだめだな。何か作って売りだそう」
「賛成です! まだ手持ちのある今の内に対策を打つのが大事だと思います。さすがご主人様です」
「私も賛成です。マサツグ様が仰る通り、寄付のような不安定な収入に頼るのは、経営上良くありません!」
「そうか、色々と考えてはいるんだ。とはいえ、それほどコストは掛けられないから、あまりお金の掛からないアイデア勝負になる。こんなのはどうかな?」
俺はペラリと、木版に書いたリストを見せる。どういったものかも簡単に絵付きで説明されている。それは、絵本、パズル、チェス、将棋、めんこ、こま、凧、うちわ、といったものが列挙されている。
「こ、こんなに沢山!?」
「すごい!このアイデアだけでひと財産になりますよ!?」
「いや、本当はもっとあるけど、ほとんどコストなしで、ってなると、とりあえずこれだけってことだな」
俺の言葉に2人の少女は更に驚いたようだ。
「す、すごすぎます。ご主人様のいらっしゃったという異世界のものかもしれませんが、この世界で流行りそうなものがピックアップされてます。たとえ他の方がご主人様と同じような境遇になってもこうは行きませんよ!」
「大げさだな。大したことじゃないよ。さあ、具体化するにはどうしたらいいか考えよう」
だが、俺がそう言っても2人はきらきらした目で俺を見るだけだ。
やれやれ、本当に大したことじゃないってのに。
「さ、早くするぞ」
「ご、ごめんなさい!」「 了解です!」
俺が促すと彼女たちはわれに返って謝るのであった。
「さて、まず絵本だが、物語に絵がついてるものだ。絵だけでも何が起こってるか分かるから子供でも読める」
「確かに字が読めない子供は多いです。それに、読み聞かせにも使える上に、子供の字の勉強にもなります。これは画期的ですよ!貴族だって買うかもしれません!!」
リュシアがそう言うと、
「これは間違いなく売れますね!!さすが、マサツグ様です!」
エリンも賛成してくれる。
だが、俺は首を振りつつ、
「いや、そううまくはいかないさ。問題は紙だ。この国では紙はただ同然で手に入るか?」
「そ、そうでした。紙はとても高価で・・・。私たち庶民や、ましてや孤児に手が出せる代物ではありませんでした・・・」
「残念すぎます・・・。ものすごい名案なのに・・・」
「おいおい、これくらいのことで諦めてどうする。無いなら作るだけさ」
俺の言葉に少女たちは、ぽかん、とした表情を見せる。
「そ、そんな・・・。私たちが紙を作りだすことができるんですか?」
リュシアの言葉に俺は、
「まあ原始的な方法だがな。不可能じゃないよ」
そう答えた。
「すごい、まさか紙を作りだすなんて・・・」
「そんなこと考えつきもしなかったです。さすがマサツグ様!」
「たいしたことないよ。さあ準備しよう。他のアイデアは後回しだ」
「はい!」「了解です!」
さて、俺たちは早速紙作りのために裏庭に出てきた。孤児院の庭は広大で、たくさんの種類の雑草が生い茂っている。
「とりあえずこの植物で試してみるか」
俺は適当な草を選んで茎を切った。
「すごい、そんなただの植物から紙が作れるんですか!?」
「まあね」
リュシアの言葉に俺は答える。
「ま、まさかそんなものから紙が出来るなんて!」
エリンが驚きの声を上げた。
「なに、植物の茎を薄く切って交差して数日重石を乗せておくだけさ。故郷の一番原始的な紙の作り方なんだ。もうすたれちゃった方法だけど、元手がなくても出来る。ただ、この植物に適性があるか分からないから、色々な植物で試してみることにしよう」
「はー、本当にすごすぎです・・・。確かこの辺りでは動物の皮を職人がなめして作っていたはずですよ。物凄く労力がかかるし、それに数が限られてるんです」
リュシアの言葉に俺は頷く。
「ああ、羊皮紙ってやつ、だろう?羊の数に依存する上に、手間ばかりかかる馬鹿げた方法さ。あまり賢い方法じゃないな。俺が今やろうとしてるものよりも、よっぽど原始的だ」
エリンが俺の言葉に頷きつつ、
「その通りですよね。は~、それにしても茎から紙を作るなんて・・・本当に画期的なことですよ!!ほとんど生産の革命です!!みんなマサツグ様の真似をすれば良いのに・・・」
「それほど大したことじゃないよ。さ、そんなことより俺だけじゃ手が足りないから手伝ってくれ」
「「はい!」」
こうして俺たちは数十種類の雑草の茎を短冊状に薄く切る作業をしばらく行ったのである。
「よし、あとは少し重い石を乗せておくだけだな。よし・・・っと。ん? 玄関の方に誰か来たみたいだな。俺が対応してくるから、お前たちは残りの分をやっておいてくれ。・・・さて、誰かなっと、あっ、あれはクラスメイトのトリタじゃないか」
俺はたちまち嫌な気持ちになる。
ミヤモトの腰ぎんちゃくで、弱い奴にはしつこく嫌がらせしてくる、かなり嫌な奴だ。俺もかなり相当しつこくやられたなあ。暴力を振るわれたり、お金を持ってこさせられたり、ぱしらされたり、人前で笑い者にされたり。何度か死にたい気持ちにさせられた。
「・・・ん、だが、それにしても様子が変だな? 何だか手足が変な方向に曲がってるし、まともに立ってられないのかフラフラしてるぞ?」
俺は首をかしげながらトリタに近づく。
「トリタじゃないか、その恰好、一体どうしたんだ? 腕も足も変な方を向いてるぞ?それに体のあちこちから血は出てるし、大丈夫なのか・・・って、耳も鼻もちぎれかけてるじゃないか。しかもお前、ふふ、髪の毛が右半分だけごっそりなくなってるぞ。斬新なヘアスタイルだなぁ。ふふふ、笑わせに来たのか?ははははは!駄目だ、こらえれきないぞ!なんだか化け物っぽくなったなあ、お前、くくく」
「へっ、へめーふはへははって、おへぇのひああだほお!?」
「うわぁ・・・何だお前、歯も数本しか残ってないじゃないか。何言ってるか全然分からんぞ? 本当に化け物なんじゃないのか?」
「へめーほほうはってひっへんは・・・」
「血が飛んだろ。孤児院を汚すな、馬鹿!!」
俺がそう言った途端、どこからともなく家具(椅子)が飛んで来て、トリタの股間を直撃した。玉がつぶれたプチッという音が2つ聞こえたような気がするが聞かなかったことにしよう。
「うぎひいいいぃぃいぃいいいいぃい・・・」と人間とは思えない化け物のような声をあげてトリタは気を失った。
「くずだとは思ってたが、最後は人間ですらなくなったな。ゴミはゴミ箱だが、さて、どうしたもんかな、コレ・・・」
と、そんな風に後始末をどうしようか考え始めた矢先、
「ひいいいいいいいいい」
という実に耳障りな女の金切り声が聞こえてきたのである。
「ん? 女か。誰だお前・・・。後ろにいたのか。見えなかったぞ?」
「ひ・・・ひい・・・わ、私を誰だと思ってるの? 私はトリタ様に買われたこの街の娼館No1よ。面白い光景を見せてやるってトリタ様に言われたから付いて来たのに、なんなのよこれわぁ!あんたじゃなくて、なんでトリタ様がひどい目にあうのよう!!」
とヒステリックにわめいた。
だが、俺もこの女のセリフに驚愕していたのである。
「えっ!? まじかよ? お前みたいなのがNo.1って、何かの冗談だろ?その娼館レベル低すぎだなあ」
「な、何ですって!? 街一番の娼館よ。つまり私より美人はこの街にはいないのよ!」
「あのう、ご主人様、いきなり椅子が飛んで行きまして、心配だから見に来たんですが・・・」
そう言って裏庭からやって来たのは、リュシアだった。
栗色の長い髪が美しく、赤い瞳がどこか怪しげな雰囲気を醸し出している。頭の上に乗った耳が可愛らしく垂れており、俺のことを心配しているのが分かる。獣人特有のしなやかさを感じさせつつも、魅力的に整った容姿というアンバランスさは自然が生み出した奇跡のようだ。
「えっ!?」
そんなNo.1娼婦の驚きの声が俺の耳に届いた。
「マサツグ様、どなたかいらっしゃってるんですか?」
そう言ってエリンも姿を現す。金髪を背中まで伸ばした絶世の美少女で、陽光を受けて光るプラチナブロンドと真っ白な肌、そして完璧と言って良い容姿は、神の造形と言われても疑う余地がないほどだ。
「んなあっ!?」
今度は酸欠にでもなったのか、口をぱくぱくする娼婦の姿がそこにあった。
「俺はリュシアとエリンを普段から見てるからなあ。彼女たちに比べたらお前なんて一般人とあんま変わらんぞ? まあ、頼まれてもお前なんて買わないレベルだわな。ま、そんなことはいいから、とりあえず、そこに倒れてるゴミと一緒にとっとと帰ってくれないか?面白い顔のゴミ同士、仲良くな?」
「く、ぐぐぐ、くうううう、No.1の私に向かってぇ・・・。こ、今回のことはオーナーに報告するわ!!お前がトリタ様に暴力を振るったってね!! そしてお前も、その娘たちもひどい目に合わせてやる! 生き地獄を味合わせてやるわ!!」
「あちゃー、やめといたほうがいいのに。俺のこの「守る(改)」スキルはパッシブっぽいからなあ・・・。トリタのも多分そのせいだろうし・・・」
「何を訳の分からないことを・・・えっ!? きゃああああああああ」
娼婦が突然悲鳴を上げた。
突然蜂の群れが襲い掛かって来たのである。もちろん、その娼婦のみを狙ってだ。
「ひい!顔はやめて顔はやめてえええええ!!!!」
たちまち、女の顔が見るも無残に腫れ上がり始めた。多少まともだった顔は今や前衛芸術の様になっている。
「おい、その屑も連れて帰れ。それから、俺の事を報告するようなら、もっとひどい目に合わせるぞ?」
「わ、わかりまじだああ!分かりまじだからもうやべでくださいいいいいいい・・・・」
娼婦は結局顔中を腫れ上がらせ、見るも無残な容姿になった。あれでは今後娼館のNo1に君臨することは出来ないだろう。そしてトリタを背負って帰って行ったのだった。まあ、あれだけ暴力で脅しておけば、おいそれと俺に復讐しようとは思わないだろう。
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