第3話 エルフのお姫様
俺は夕食として簡単な料理であるポトフを作った。
「すごい! とってもおいしいですご主人様!! こんなすごい料理食べた事ありません!お料理屋さんが開けるレベルですよ!!」
「たいしたものじゃないよ」
俺が首を振ると、リュシアはたちまちしゅんとする。どうしたんだ?
「私、ご主人様のものなのに、役に立ててない」
そんなことを言ってと落ち込んでいる。
「これから勉強していけばいいさ。一緒にがんばっていこう」
「はい!」
そんな会話をしていると、ばたばたとした騒音が響いた。
なんだなんだ?
と、次の瞬間、黒装束の何者かが俺に突然襲い掛かって来た。だが、俺はその動きを完全に目で追っていた。そして、相手が振りかざしてきた剣をあっさりと奪い取ると、返す刀であっさりと返り討ちにしたのである。もちろん、大事なポトフもお皿からこぼさないよう細心の注意を払いながらである。
すると、どこからか驚きの声が聞こえてきた。
「ば、馬鹿な!我らバルク王国は大陸でも最強の密偵部隊と言われているんだぞ!? それをこうもあっさりと!?」
「おい、こっちは夕飯時なんだ。今なら許してやるから、さっさとこの死体を持って帰れ」
「馬鹿にしやがって! どっちにしても見られたからには生かしてはおけない! 全員でかかれ!!」
そして10人くらいの集団が襲いかかってくる。だが、俺は掛かって来た全員を一瞬で全滅させた。スローリーすぎてあくびが出るな。
「ば、馬鹿な!わ、我らバルク王国の諜報部隊が・・・。お、俺が死んだらバルク王国の情報を管轄する者がいなくなる。国が、祖国が本当に滅亡してしまう。に、逃げなくては! 覚えていろよ!!」
そう言って逃げようとするが、暗殺者をあっさりと逃がすようなお人好しではない。俺はあっさりと居場所を看破すると、そちらへ向かって敵から奪った剣を投擲する。
「く、くそう・・・わが祖国が・・・」
そんな言葉を残して、バルク王国とやらの諜報部隊最後の一人はあっさり死んでしまった。
「おい、そこに隠れてるのは分かってるんだぞ?」
俺の言葉に隠れていた者が姿を現した。フードをかぶっている。背は小さい。そう、先ほどの諜報部隊ではない。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
そう言ってフードを取る。
それは、幼い雰囲気を残した金髪を背中まで伸ばした絶世の美少女だった。何よりも特徴的なのは耳がとがっているというところだ。肌はどこまでも白く、何やら線が細くて神秘的な雰囲気があった。
「申し遅れました、私はエルフの森の王女エリンです。この度は危ないところを助けて頂いて本当にありがとうございました。国を代表してお礼を申し上げます」
「別に国のために助けた訳じゃない。君を助けたんだ」
俺がそう言うと、エリンという少女はきょとん、とした後に、少し照れながら個人的にお礼を言った。
「そ、そうですか、国ではなく私のために・・・。あ、あの、私個人としてお礼を言います。本当にありがとうございました」
「別に大したことじゃないさ」
「いえ、まさかあなたほどの使い手がいらっしゃるとは。あれは私を狙うバルク王国最強の密偵達でした。S級冒険者でも苦戦するような難敵です。それをあんなにあっさりと・・・。しかも全滅させてしまうなんて、すごすぎます」
「別にS級がどうとか、俺にとってはどうでもいいことだ」
俺はそう言って否定するが、エリンはキラキラとした目で俺を見てくる。やれやれである。
「あの、お、お名前を教えてほしいのですが」
と聞いて来る。なぜか頬が赤い。
「マサツグだ」
「マサツグ様ですか。素敵なお名前・・・」
「いや、別に普通だと思うが・・・」
エリンは首を振りつつ、
「マサツグ様・・・マサツグ様かぁ・・・」
と、俺の名前をなぜかブツブツと繰り返している。
「とにかく何があったかは知らんが、とりあえず脅威は去ったからもういいな?」
俺はそう言ってくるりと背中を向けた。
「お、お待ちください! 捨てないでください、マサツグ様!」
そう言って少女は俺にすがりついてきた。
ふう、と俺はため息をつく。
「しょうがないな、飯を食べながら話だけは聞こう」
「ありがとうございます~」
と少女は泣いて感謝の言葉を述べるのだった。
そして、話を聞いてみたところ・・・、
「なるほど、故郷をバルク王国に焼かれて森はもうない、と。一緒に逃げた部下もほぼ全滅。エリンはエルフ最後の正当なお姫様ってことか」
「その通りです。私が死んだらエルフ王家の血が絶えるところでした。生き残れたので子供を産んで増やさないといけません。それは別に人種はエルフじゃなくても良いのです。でも、できればマサツグ様のように、力があって、守ってくれて、優しそうな人が良いかなぁ、なんて・・・」
そう言って俺の方をチラチラと目配せしてくるが・・・、
「それは大変だな。だが、気持ちは嬉しいが、今は俺に助けられたから動転してるんだろう。それにまだエリンは幼い。また大人になるにしたがって冷静になり、気も変わるだろう」
「動転なんかしてません! それに、もう子供だってつくれます!! 本気なんです!」
「いや、吊り橋効果ってやつだろう。それにまだ君は幼い。大人になればわかるさ」
「それって・・・大人になったら結婚して頂けるということですね?約束ですよ!」
「え? いや、別にそういうことじゃ・・・」
「結婚は10000年を超える霊樹の前で精霊婚で、子供は一族復興のためにいっぱいつくって・・・うふふ」
そんなエリンに向かって、隣でおとなしくしていたリュシアが声をかけた。
「あの、エリンさん、ご主人様のお嫁さんには大人になったら私がなる約束をしてるんです。エリンさんはダメです!」
「そ、そんな。私だってマサツグ様と結婚したい! それに私だって大人になったらOKって言ってもらったもん」
「だめったら駄目です! 私が先に、大人になったらお嫁さんにしてあげる、って言ってもらったんですから!」
「やだやだ、私も結婚してもらうんだから!」
やれやれと俺は頭を抱えるのであった。
その夜はそんな調子で眠ることになった。エリンも両親を失ったということで、孤児院に留(とど)まることになった。明日もこの調子で言い合いをするのかと思っていたが、しかし次の日二人はニコニコしておしゃべりをしていたのである。どうやら、何かを秘密の協定を締結したらしい。時々二人の口から、第一夫人とか第二夫人とかいう言葉が出てきたが、何のことかは分からない。
とりあえず施設の孤児は2名になったのであった。
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