第2話 お買い物
俺は現在、街へ買い物に繰り出しているところだ。リュシアと孤児院の話をしたら、まずは必要なものを購入という話になったのだ。多少だがお金はもらっていたからな。本当に1ヶ月程度で底をつくようなはした金だが。
「こっちです、ご主人様ぁ」
そう言って小さい体でリュシアが前をとてとてと駆ける。
すると、周りの人間たち・・・特に男どもが全員振り返った。そう・・・リュシアなのだが、ともかくめっちゃくちゃ美人なのだ。まだ幼さを残す少女だというのに、将来が恐ろしいレベルなのである。ちょっと地球でも見たことないくらいである。
そんなことを思っていると、「ご主人様~」と言いながら、遠慮がちに手をつないでくる。
おいおい、あんまり目立つと恥ずかしいだろう? なにせ周りからは、
「くそ、なんであんな奴に!」
とか、「チッ」
と言った舌打ちが聞こえて来るのだから。地団太を踏んだりしてる奴もいるくらいだ。
やれやれ、余り目立ちたくないんだがなあ。
あと、時々ナンパのような手合いが来るのだが、その度に俺の後ろに隠れてブルブルと震えている。俺へ向ける態度と違いすぎて、まるで別人のようである。
まあ、「守る(改)」スキルがあるので、ナンパ野郎に絡まれても特に問題ないんだがな。
さて、そんな感じで町中の点在する店を色々と周った。なぜか通る場所ごとに騒がしくなった。やれやれである。
「ご、ご主人様・・・わたし今日はご主人様とまるでデートみたいで楽しかったです・・・」
そんな可愛らしいことを言うが、ここはスタンスをはっきりさせておく。
「あくまで買い物だよ」
「それでも嬉しかったです」
と、そんな会話をしていると、遠くが少しざわついているのに気がついた。
「んっ、あれは?」
どうやら、若者同士のケンカのようだ。路上で剣を抜いて立ちあっている。
「冒険者同士のけんかだ!!」
そんな声が聞こえてきた。冒険者というのは、いわゆる依頼を受けて報酬をもらうアレか。
ただ、俺は残念ながらこういったことを面白がるような神経は持ち合わせてない。俺はさっさと通り過ぎようと足を早めた。
と、その時、一方の剣が弾かれて俺たちの方へ勢いよく飛んできたのである。このままではリュシアに当たる!!!!
が、そうはならなかった。
なぜなら、俺が手刀でその飛んできた剣を木っ端みじんに粉砕してしまったからである。
ギャラリーからはまるで剣が消失してしまったように見えたことだろう。
ふう、どうやら「守る」のスキルが発動したようだな。あらゆる意味で守るという説明通りのようだ。
「な、なんだアイツは!? 飛んで行った剣はオリハルコン製だったのに、それを素手で打ち消しちまったぞ!」
「相当高位な冒険者に違いない!」
「馬鹿な、いくら高位の冒険者でもあんなことが出来るのはS級冒険者ですらいない!」
そんな声が聞こえてくるが、まったくわずらわしい限りだ。俺は目立ちたくないのだ。
俺はその場をそそくさと立ち去る。
「すごい、御主人様・・・」
と、顔を赤くしてリュシアが俺のことを見上げていたが、大したことはしていないので俺はあえてスルーするのであった。
さて、そんなこんなで孤児院に戻ってきた俺は、リュシアと一緒に環境改善に取り組んでいた。
具体的には掃除をしたり、日用品を配置したりだ。
と、そんな忙しくしているところに、なぜか急におっさん2人が来訪したのである。
「冒険者ギルドのギルドマスターをやっているドランだ。こいつは付き人のシュライ」
そう言って自己紹介する。
何の用件だろうか? いちおう客室っぽい部屋には通したが、俺とリュシアは顔を見合わせる。というか、さっさと孤児院を綺麗にしたいんだが・・・。
「率直に言おう。ぜひ冒険者ギルドに入ってくれないか。この通りだ!」
そう言ってドランがいきなり頭を下げた。
「さっきの剣を消滅させたすさまじい力のことを聞いた。君の実力はA、いやもしかしたらS級冒険者にすら達するかもしれない。頼む! 登録してくれるだけで、謝礼を出してもいい!!」
「申し訳ないですが、ここで孤児院をすると決めていますので」
「頼む! 年に一度だけでも良いから依頼を受けてほしい。謝礼も依頼主からだけでなく、ギルドから直接支払ってもいい」
「何と言われても断ります。すでに孤児もいるので投げ出すことは出来ません」
俺がきっぱりと断ると、少しやつれて顔の青い、いかにも事務員風の男・・・確かシュライだったか・・・が突然唇を歪めて叫んだ。
「こんなにギルド長が頼んでいるのに断るとはどういうつもりだ!」
おっと、早速化けの皮がはがれたな、と俺は首を振って、
「やれやれ、礼儀もなっていない。これは断るしかないですね」
俺はそう言って、がたり、と席を立つ。
だが、ドランさんの怒声が部屋に響き渡った。
「シュライ!! てめえこの馬鹿野郎が! 俺に恥をかかせやがって!!」
「し、しかし・・・」
「しかしも何もねえ!お前は首だ! 二度とその辛気臭い顔を見せるな!!」
「そ、そんな! 10年もおつかえしてきたのに・・・」
「お前みたいな無能な役立たずはもういらん!!」
「ひいいい、お、お許しを!」
「黙れ!!!」
ドランは叫ぶと、その筋骨隆々の腕でボディーブローを放つ。
ボゴォ! という鈍い音がして、
「ぐげえ!」と言ってシュライが目を剥くその場で倒れる。
「あのう、もういっていいですか? 孤児院の運営の準備に忙しいので」
俺がそういうと、ドランが焦った様子で口を開いた。
「ほ、本当に馬鹿な部下が無礼なことをしてしまった。お詫びしたい。だが、なんとか・・・、そう、冒険者としてでなくてもいい。依頼も受けてもらわなくてもいい。ただ、もしも偶然時間が空いていて、冒険者ギルドから依頼をさせてもらったときに、偶然タイミングが合って、君の都合や意向が合う様なら受けることも検討して欲しい。もちろん、報酬も相当高額出す。待遇も最高級のものにする。なんとか検討して欲しい」
「うーん、まあ、それくらいなら、考えておきます。ただ、孤児院が優先ですが」
「ありがとう、ありがとう! 無理を聞いてくれて」
「ご主人様、とっても懐が深くて優しい」
リュシアもそんな感想を言う。
「おお、そういえば孤児院を経営してるんだったな。どうだろう、少し支援をさせてほしいんだが・・・」
そんな申し出をドランがしてくるが、
「いえ、お断りします。自分で何とかするので」
「し、支援ではなく、部下の迷惑料だと思ってくれ!」
俺は断ろうと再度口を開きかける。だが、俺の話を聞く前に、ドランが無理やりドサっという大きな音を立てて袋を置いて去って行った。もちろん、気を失っている部下のシュライを怒鳴りつけ、蹴り倒しながらだ。
「馬鹿野郎早くたて、いつまで恥をかかせるつもりだ、この無能が!」
「ひいい!!」
俺が「おい!」と呼び止めるが、聞こえないのかそのまま行ってしまった。
やれやれ、困ったもんだな。俺は溜め息をつく。まあ、しょうがないから、使ってやるとするか。全然本意じゃないんだがなあ。
俺がそんなことを思いながら袋からお金を取り出す。すると、リュシアが驚きの声を上げた。
「かなりの金額ですよ!? 白貨5枚に金貨400枚に銀貨1000枚!? 10,000,000ギエルはあります!? ご主人様じゃなければ、きっとこんな大金を出そうという気にはならなかったでしょう」
「たいしたことじゃないさ」
俺は首を振るが、少女は尊敬のまなざしで俺を見上げてくる。やれやれである。
そんな風にしながらその日は夕暮れへと差し掛かるのであった。
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