【書籍化&コミカライズ】異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件【Web版】
初枝れんげ@3/7『追放嬉しい』6巻発売
第1話 奴隷の少女
「ここが今日からお前が運営する孤児院だ」
建物は教会のような感じだが、ともかくぼろぼろだ。屋根や壁の塗装がはげていたり、硝子が割れていたり、ともかく汚れていて、しかも庭の雑草はぼうぼうだ。
扉を開けようとしたら扉ごと取れてしまう。
案内してきた城の兵士も、さっきのセリフを言うとすぐに帰ってしまった。
はぁ、と俺こと直見真嗣(なおみまさつぐ)はため息を吐きながら、なんでこんなことになってしまったのか、思い出していたのであった。
簡単に言えば、俺は・・・いや、俺たちは召喚魔法とやらで異世界に連れてこられたのだ。
よく分からないが、クラスの奴らが一緒だった。
呼び出された周囲には黒いローブを頭からかぶった魔法使いらしき人間が何人もいた。態度自体は丁寧なのだが、ともかく説明を求めるも無視され、この国の王様とかやらの前に連行されたのであった。
そして、訳もわからないうちに水晶に手を乗せられて「ステータス確認」とかいう作業をさせられた。するとなぜか、俺の確認が終わるなり態度が急変。
「こいつはいらん」とか急に言われたのである。一方で、周りは勇者だ、とか、伝説級の魔法使いだ、などと言われ、ちやほやされていたのであった。
なお、俺のスキルは「守る(改)」と「初級ステータス鑑定」の二つだったのだが、これがどうやらどちらも初級の「戦士」ならば誰でも持っているスキルだったらしい。
いわゆる、自分や仲間を敵の攻撃から防御するスキル、ただし、聖騎士の鉄壁や、魔法リザレクションには及びもつかない雑魚スキル、ということらしい。
なお、(改)というのは多少威力が増したりしているものらしい・・・が、所詮初級スキルだし、攻撃も回復スキルも一切ないので、いらん、という評価だったわけだ。
というわけで、放り出して餓死されるのもアレなので、と連れてこられたのがココだったわけだ。つまり、世界が荒廃しているから孤児院やれ、というわけである。
俺が幾ら抗議しても聞き入れられなかったし、クラスカースト底辺だった俺は、クラスメイトからすらも軽蔑の眼差しで見送られた。
俺は言われるがまま従うしかなかったのである。
・・・てか、さっきから人の気配がするなー。浮浪者か何かが住みついてるのか? 俺は恐る恐る中へと入って行った。
すると、
「誰・・・ですか? けほけほ」
そんな声とともに猫耳を生やした幼い少女が現れたのである。
だが、少女の状況は悲惨だった。顔の半分が醜くただれていて、呼吸器からぜーぜーという不快な音が聞こえていた。その上、体がとてもだるそうだ。熱があるのだろう。
「だ、大丈夫か?」
俺が声を掛ける。だが、少女からは、
「ご、ごめんなさい。もう、何もありません。お願いですから、もう叩かないでください」
「お、おいどうしたんだ?」
「ひぅ」
そう短く悲鳴を上げると、ぶるぶる、と身体を震わせた。
良く見ると、体中にムチの跡のようなものがある。
「大丈夫だ、おれは叩いたりしないよ」
「ほ、本当ですか・・・?」
「本当だよ」
「は、はい・・・」
最初は半信半疑っぽい少女・・・リュシアというそうだ・・・だったが、しばらくなだめると何とか信じてくれたようだ。
「・・・落ち着きました。すみません」
「一体どうしたんだい?」
そう聞いてみる。どうやら、先日まである大商人の奴隷だったが、その主人が暴力を振るうのが趣味だったとのことだ。
それで、よく殴るける、果てはむち打ちの刑にあったらしい。幼かったので性的な部分はなかったみたいだが、劣悪な環境で虐待にあっていたようだ。
で、弱って病気になってこんな顔になったら捨てられたらしい。彼女はここで死を待っていたのだ。
「でも、一人は寂しいです。獣人である私の父も母も殺されてしまいました。せめての情けで死ぬまで一緒にいて欲しいです。もう一人は嫌なんです。ぐす、ひっくひっく」
「分かった」
そう俺はあっさりと了解する。
「こんな獣人で顔も醜くて病気の女の子でもいてくれるんですか?」
「もちろん」
俺はやはりあっさりと頷く。
「ありがとうございます。もう死んでも良いです・・・」
そんなことを言う少女を俺は慰める。
「とてもかわいい女の子だよ」
「嘘でもうれしい。もっと、私が元の状態の時に出会いたかった。顔とか体のあざとか・・・そうすれば、もしかしたら・・・」
そうか、何か良いスキルを俺が持っていれば良かったんだが・・・。
「すまいない、守る、スキルしかないんだ・・・」
「いえ、病気になったとき医者にはかかりました。ですが、最高の治療魔法であるリザレクションを使用しても無理だという診断だったのです。恐らく、誰にも治せない病気なのでしょう」
彼女はそう言って俯く。
俺は何も言えず、彼女の頭を撫でてやろうと手を伸ばした。
だが、その瞬間、俺の差し出した手から凄まじい光が迸ったのである。
そして、光が収まった途端、少女が驚きの声を上げたのだ。
「そ、そんな・・・。リザレクションでも無理だった病気や顔の傷、それにムチの跡も・・・全部治ってます・・・」
えっ、どういうことだ・・・? 確かに今の光は俺の手から放出されたようだが。
だがおかしいぞ。俺のスキルは「守る」と「ステータス鑑定」だけのはずだ・・・。いや、確かに(改)とはあったな・・・。
あっ、ステータスを頭に浮かべて、ダブルクリックの要領で意識を集中すると詳細な説明画面が出てきたぞ? なになに?
・・・『周囲の身近な対象をあらゆる意味で守護するスキル。1億年に一人いるかいないかのスキル。選ばれた本当の才能を持つ者にしか発現しない』と書いてあるな・・・。
えっと、つまりどういうことだ? 現世ではつまらない学生に過ぎなかったが、これが本当の俺の実力だってことなのか?
だが、俺が思考に没頭していると、少女が泣きながら話しかけてきた。
「ぐすぐす、ありがとうございまひゅ、わ、わらひ、もう死んじゃうんだって・・・ほんろうにさみひくって・・・」
どうやら言葉にならないようだ。
俺はなでなでとリュシアの頭を撫でてやる。
「あ、それ・・・」
「いやだったかな?」
「い、いやじゃないです。獣人では頭を撫でるのは、親かご主人様だけですから」
「? 俺は親でもご主人様でもないが?」
「ご主人様です! お願いだからご主人様になってください!」
突然の少女の申し出に戸惑う。
「いや、そんなこと言われても・・・」
「お願いします! ご主人様になってください。私を飼ってください。・・・いえ、やっぱり私なんか嫌いですよね・・・」
「そんなことないよ。分かった。でも、いやになったら言ってくれ」
「絶対になりません!」
彼女はそう言ってから、少しあらたまった口調で話し始めた
「あの、ご主人様。私を助けてもらってありがとうございました」
「うん」
「でも、いつ捨てられるか不安なんです」
「そんなことしないよ?」
「だから、私がご主人様のものだという証が欲しいです」
「えっ? それって・・・」
リュシアはそう言うと、止めるまもなく着ていた服を脱いだ。
「お願いです。私に証を下さい」
「いや、それはできないな」
と俺はすぐに断る。さすがにこんな少女の、ある意味弱みにつけこむようなことはできない。
「また、大人になったらね」
そう優しく言ってお茶を濁す。だが、
「本当ですね!? 大人になればお嫁さんにしてくれるんですね! 絶対に約束ですよ!?」
あれ?
「きっと大人になったら他に好きな人が出来るよ」
だが、少女は聞いて居ないのか、ただただ「お嫁さん、お嫁さん、ご主人様のお嫁さん」と言ってニコニコとしている。
あれ? おかしいなあ。
とりあえず、俺がここで孤児院を開くことを伝えた。とりあえずリュシアは孤児の一人目として孤児院で一緒に暮らすことになったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます