第二十三話 二人の捜索

 支部長室のテーブルの上に現れたリーサンからの手紙。それを読んだライデンは、ソファーに座って何やらブツブツと言っていた。リンカは動揺した顔で立ったまま、何度も手紙を読み返している。


「支部長これって」


「ああ、全くどうなっているんだ」


 ライデンは何かを決心して立ち上がり、防具を身につけ始めた。


「どうするんですか?」


「まずはリーサンがいる湖に救助隊を出す。俺はアンに話を聞いてから、捜索隊を連れてダンジョンへ潜る」


 ライデンはそう言いながら壁に立てかけてあった大きな剣を背負い、そして支部長室を出た。リンカも後をついて行った。


 一階に降りたライデンが向かった先は、建物の裏手にある訓練場だった。そこには十人ほどのギルド兵士やシーカーが、いつでも出発できるような状態で待機していた。馬や馬車まで準備されている。


「いつのまに……」


 感心しているリンカをよそに、ライデンがよく通る声で指示を出した。


「ひとり居場所が分かった! ダンジョンの東にある湖だ!」


 その声で訓練場に緊張が走る。


「兵士二人と回復術者二人、すぐに馬を使って救助に向かえ! 馬車一台も後を追え! 救助対象はリーサン=ハーキマーク、大怪我をしている!」


 ライデンが指示すると、六人がすぐに出発した。


「残りの四人は俺についてこい!」


 ライデンとギルドシーカー二人が馬に乗って、アンのいる教会に向かった。リンカは残りの兵士二人と一緒に、馬車に乗せてもらった。


 教会に着いたライデンとリンカは、兵士達を外に待たせてミト神父の家に入って行った。


「アン、どんな具合だ?」


 ライデンがノックもせずに部屋に入る。


「あ、ライデン支部長」


「アンっ、なんて格好してるの! ちょっと支部長は外に出ていて下さい」


 アンが裸に近いような姿で、ベッドの上に座って髪をむすんでいたので、ライデンはリンカに追い出されてしまった。


「なんだ俺はべつに構わんぞ」


 ライデンはしばらく部屋の外で待たされたが、アンが服を着るとやっと中に入れてもらえた。ついさっきまでメアリ夫人が、アンの体に傷あとが残ってないか確認していたそうだ。


 ライデンは気を取り直すと、まずはアンの体調などを確認し、それから本題に入った。


「アン、ダンジョンで起きたことを教えてくれるか?」


「騎士の魔物と戦ったの。すごく強くてリーサンは槍で刺されて大怪我をしたわ。たぶんわたしもそいつにやられたの……」


「覚えてないのか?」


「攻撃しようとしたら、魔法で飛ばされて気を失ったみたい」


 ライデンは最も聞きたいことを聞いた。


「アン、エナがどうなったか知っているか?」


 リーサンの手紙には、アンと一緒に穴に落とされたと書いてあった。しかし、今のアンにそのことは話すべきではない。ライデンはそのように考えていた。


「少しだけ覚えてる。お姉ちゃんはわたしに回復魔法をかけていたわ。こう……抱っこするみたいにして。だから青い光がすごく眩しかった。でもその場所がどこかはよく分からないの。風の音がすごくて、体が中に浮いてるみたいだった」


 ライデンはアンの話を聞いて背筋がゾクっとした。アンが覚えてるその状況とは、二人が穴の中を落ちていくまさにその瞬間ではないだろうか。


 しかしアンは礼拝堂で発見された。では、エナはどうなったのだろうか。とにかくリーサンの手紙の通り、今はダンジョンの穴の中を捜索するしか手はなさそうだ。


「そうか、分かった。それとリーサンのことだがな、あいつはダンジョンを脱出して、おそらく今は湖にいるはずだ」


「リーサン助かったの?」


「先ほど救助隊は出したが、助けられるかどうかは分からん。湖まで馬でも丸一日はかかる。それまで生きていてくれればいいが」


 教会から出てきたライデンはすぐに馬に乗り、そのまま捜索隊の四人を連れてダンジョンへ出発した。




 翌日の早朝、先に出発した救助隊が湖のほとりでまだ息のあるリーサンを発見した。馬車の中で治療を続けながら二日間かけて街に戻り、そしてリーサンは一命を取り留めた。


 一方、ダンジョンに向かったライデンと四名の捜索隊は、出発してから一週間後に街に帰ってきた。リーサンの手紙に書いてあった地図を頼りに捜索した結果、姉妹の荷物は発見したが、その近くにあるはずの穴はいくら探しても見つからなかった。そしてエナの捜索は、む無く打ち切られることとなった。




第二十三話 二人の捜索 ――完

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