第二十一話 手紙

 アンが意識を取り戻す少し前、夜明けが近づいて空がしらんできた頃、ライデンとリンカはギルドの支部長室にいた。


 昨夜遅く、リンカが慌ててアンのことを知らせに来たとき、ライデンはすぐに救援を出すことはせずにアンの回復を待つことを選択した。詳しい情報が必要だと判断したからだ。しかし、それでよかったのだろうか? 考え込むライデンに、ソファーの向かい側からリンカが言った。


「私も、支部長の判断に賛成です」


 先ほどまで二人は、アンの様子を見るために教会に行っていた。若いシーカー達の夜を徹した回復魔法や、ラビリットから提供されたログライト鉱石のおかげで、アンは順調に回復に向かっているようだった。


 一旦ギルドに戻ることにしたライデンは、リンカに家に帰って休めと言ったのだが、彼女は従おうとはせず、結局ライデンと共に今も支部長室で待機している。


「リンカ、きみが見た夢のことだが……」


 話しかけられたリンカは小さな咳払いをひとつすると、心配そうな顔をして、上目づかいにライデンを見た。


「エナがリーサンに回復魔法をかけていた場所は、湖のほとりだったんだな」


「はい、あのダンジョンの扉の東にある湖だと思います」


「時間帯は分かるか?」


「夜でした。あの……支部長」


「分かっている。おまえの夢の情報だけで動いたりはせん。ただ俺だけでも先に救援に行った方がいいんじゃないかと、その選択肢が頭から離れないんだ」


「ただの夢だったという場合も、よくありますので……」


「それも含めて私が判断する。心配するな」


 窓から朝日が差し込んできてしばらくした頃、支部長室のドアがノックされた。リンカがドアを開けると、アンの治療にあたっていたシーカーが入ってきてライデンの前に立った。


「ライデン支部長にご報告いたします。先ほどアンが意識を取り戻しました。本人は少し混乱しているようでしたが、心身ともに異常はありません。今はミト神父とメアリ夫人がておられます」


「そうか! ありがとうマーカス、ご苦労だったな、ゆっくり休んでくれ。ラナにもすまなかったと伝えておいてくれ」


 マーカスと呼ばれた若いシーカーは目の下にクマを作りながらも、肩をたたきながらねぎらうライデンに笑顔でこたえて帰って行った。


 若いシーカーのことだけでなくその家族の名前まで覚えていて気づかう。こう言うところがこの人のすごいところなんだよなあ。リンカはライデンの顔を盗み見ながら思った。


「リンカ、俺は教会に行くがおまえはどうする?」


「もちろんご一緒します」


 その言葉を聞くと、ライデンは勢いよく支部長室のドアを開けて出て行こうとした。


「待って支部長! あれは……」


 リンカがライデンの腕にしがみついた。


「なっ、なんだどうした?」


 ライデンが驚いてリンカを見ると、その視線はソファーテーブルの上を凝視している。


 テーブルの上に、青い光の粒子が小さな渦を巻いていた。そしてひときわ明るく輝くと光は消えて、紙のようなものがパサッという音を立ててテーブルの上に現れた。


「何だこの紙は……?」


 ライデンは折り畳まれたその紙を広げてしばらく無言で見ていたが、やがて驚いた顔をしながらリンカにそれを渡した。


 その一枚の汚れた紙は、リーサンからの手紙だった。




 ライデン支部長


 ダンジョンで騎士の魔物と交戦し、私とアンは致命傷。さらに騎士は、アンとエナを底の見えない深い穴に落として森へ去りました。裏面の地図を参考に姉妹を捜索願います。騎士とは絶対に遭遇しないように。その他は下記の通り。


 •ドラゴン等の強い魔物多数

 •海辺の岩場に人魚の精霊

 •精霊のログライトをもらう


 私は一人で湖まで戻りましたが、もう助かりません。最後に、精霊のログライトの力でこの手紙を送ります。


 リーサン=ハーキマーク




第二十一話 手紙 ――完

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