第二十話 最後の試み
リーサンは両手に持った剣で体を支えながら、ひたすら川沿いを上流に向かって歩いた。足を引きずりながらも前へ前へと気力で進み、やっとのことで湖までたどり着いた時には、東の空はずいぶんと明るくなっていた。
湖のほとりに座ってしばらく休み、そして後ろを振り返って森の中を見た。そこでキャンプをしたことが遠い昔のことのように思えた。
「ここまでか……」
今の自分の体がどんな状態なのか、リーサンはよく分かっていた。もうこれ以上、命を
朝方の静かな風に吹かれながら、ふとライデン支部長の話を思い出した。
あの日、ミッションの説明を終えたライデンは、アンとエナに旅の準備を始めるように指示し、その後二人きりになった部屋でリーサンに話をした。
「俺が最初のプラチナダンジョンを見つけてから、もう十七年になる」
「二つ目が見つかるとは思いませんでしたよ」
「なあリーサン、アンがつけているイヤリングのことだけどな……」
「ログライトらしいですね。ミト神父に聞きました」
「そうか、一応ギルド内でも極秘事項なんだが」
「驚きました。あんな綺麗なログライトがあるなんて」
「あれも、おそらく精霊のログライトだ」
「精霊のログライト? あれもってことはまだ他にもあるんですか?」
ライデンは左腕の
手に取って見てみると、細かい装飾が
「精霊のログライトだ」
「これをどこで?」
「プラチナダンジョンで手に入れたんだ」
ライデンは、そのブレスレットをダンジョンの中で出会った精霊から譲り受けたと説明した。さらに精霊は、特別な力を得たいのならそのログライトを活性化させれば良い、と言ったそうだ。それ以降、ライデンは何度もダンジョンに潜り、一年かけてログライトの活性化に成功したという。
「それで、特別な力は得られたんですか?」
「ああ、得られた。精霊はその力のことを《
ブレスレットを手首にはめ直しながら、そう答えた。
「具体的には、どんな力なんですか?」
ライデンは腕を前に出して、手のひらを上に向けた。次の瞬間、手のひらの上に大きな炎が燃えさかり、そして一瞬にして消えた。
「炎を
リーサンは驚いて、すぐに言葉を発することが出来なかった。
「この力は魔法とは根本的に違うんだ。剣に
本当に特別な力だ。リーサンは感心すると同時に、ライデンの言いたいことも察していた。つまり今回調査するダンジョンにも精霊がいて、そして特別なログライトがあるかもしれないということだ。
「リーサン、今回は一回目の調査だ。深入りする必要は全くない。まずはその世界がどんなところかを見て来てくれ」
ライデンは最後に、かつて自分が入ったプラチナダンジョンの特徴や、そこから想定されるリスク等を伝えて話を終えた。
リーサンは
ふと人魚の精霊の言葉を思い出した。たしか彼女は、活性化していなくても、その特性は持っているはずだと言っていた。
「死ぬ前にやるべきことがひとつある」
そう
この精霊のログライトの力は《人魚の逃亡》と呼ばれ、物質を転移させる力だ。出来るかどうか分からないが、もしこの手紙がライデンに届けば、彼はすぐにアンとエナの捜索隊を出してくれるはずだ。
リーサンは折り畳んだ手紙とペンダントを両手で包み込むように持ち、そして祈るような気持ちで何度も
「頼む、届いてくれ、届いてくれ……」
するとペンダントの石が小さく輝き、その光の粒子が手紙を包みはじめた。そして次の瞬間、光と共に手紙はリーサンの手の中から消えて無くなった。
「転移……したのか?」
しかし、その結果を知るすべはない。最後の試みを終えたリーサンは、大きく息を吐くとその場に倒れた。
「少しだけ……眠ってもいいよな」
リーサンはゆっくりと目を閉じた。東の空から朝日が登り始めていた。
第二十話 最後の試み ――完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます