第九話 焚き火の夜に
街を出てから三日目、目的地に近づくほど強い魔物が出るようになってきたが、しかし三人の戦いは順調だった。
まずアンの二刀流だ。前衛としての火力は抜群で、特に複数が相手のときの威力は
さらに、エナの魔法も期待以上の働きを見せた。前衛の動きに併せてタイミングよく攻撃魔法や補助魔法を放ち、負傷した時もすぐに回復魔法が飛んでくるので、安心して戦うことができた。
リーサンは、久々にパーティを組んで冒険する楽しさを味わっていた。むしろアンとエナだけで十分強いので、リーサンはほとんどまともに戦っていない。
もしかしたら姉妹には、あまり戦えない男だと思われてるかも……。
「ねえリーサン、すぐ近くに湖があるわ」
勝手に先へ進んでいたアンが茂みの中から現れて言った。アンが出てきた先を見ると、樹々の間から湖が見える。
「その湖から川沿いに西へいくと目的地の遺跡に着くはずだ。今夜はここで休もう、明日が本番だ」
エナが周囲に結界をはっている間、リーサンとアンは火を起こし、荷物から食料を取り出して夕食を作った。準備ができると、三人は焚き火で体を温めながら、干し肉やパンを食べてスープを飲んだ。
リーサンは旅の夜に焚き火を囲むのが好きだった。星空の下、パチパチと
ライデンから聞いた話を二人に伝えておこうとリーサンが口を開いた。
「二人とも、
アンとエナは静かに頷いた。
「十年以上前に初めて発見された特殊なダンジョンなんだけど、その後、似たようなダンジョンは見つからなかったんだ。だから世界にひとつしかないという人もいた。でも……明日潜るダンジョンは記念すべき二つ目だ」
「普通のダンジョンと何が違うのかしら?」
エナが尋ねる。
「支部長の話によると大きく三つの違いがあるらしい。一つ目は、ダンジョンの中は閉鎖空間ではなく開放した世界だということ。二つ目は、中にいる魔物が桁違いに強いこと。三つ目は、意思疎通ができる精霊がいること。この三つが大きな特徴だそうだ。もっとも今回のダンジョンが同じとは限らないんだけど……」
エナは不思議ねとつぶやいて微笑んだ。アンは好奇心で目を輝かせていた。
「今回はこの三つの特徴について可能な範囲で調査せよとのことだ。いずれにしても、まずは実際に潜ってからだな」
リーサンは一旦この話を打ち切った。
「それはそうとエナ、さっきから手に持っているその紙はなに?」
「これは、リンカさんがくれたんです。湖に着いたら読むようにって」
「何が書いてあるの? あ、プライベートなことだったら言わなくていいよ」
「その……湖に着いたら死者の魂を
「私、少しお祈りしてきますね。すぐに戻ってきますので」
「ああ、気をつけて」
エナはランタンと短剣を持つと、茂みの中へ消えていった。
エナが行ったのを見届けてからしばらくして、リーサンはアンの背中に話しかけた。アンは少し離れた所でしゃがんで片付けをしていた。
「アン、おまえのお姉さんはすごい美人だな」
アンは不思議そうな顔で振り向くと、そばまで近寄ってきて尋ねた。
「ねえ私は? 私はお姉ちゃんと比べてどんな?」
座っているリーサンの膝に体重を乗せて、アンは返答を期待した。
「おまえもこんなに可愛いんだ。すぐに同じくらい美人になるさ」
アンの顔についていた汚れを
「二人とも、何をしてるのかしら?」
茂みの奥から戻ってきたエナは、少しあきれた顔で微笑んだ。
「あなたはなぜ、ほっぺをつままれながらクネクネしてるの?」
そう言いながらアンの背後にまわり両腕で抱きしめると、妹の頬に自分の頬をあてた。
「ああ、あったかい……」
リーサンはしばらくの間、この微笑ましい姉妹の様子を眺めていた。
お祈りをした後だからだろうか、エナの瞳にはセミトランスの青い光がわずかに残っていた。
第九話 焚き火の夜に ――完
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