第八話 ダンジョンへの旅路
三人がライデン支部長から言い渡されたミッションは、新しく発見されたダンジョンの一次調査だった。
街から北へ三日ほど進むと森に囲まれた湖があり、その湖から西へ流れ出る川を半日ほど下ったところに古い遺跡がある。約三ヶ月前、その遺跡の中にダンジョンへの扉が見つかったとのことだ。
支部長室のソファーに座りながら、任務の概要を聞いたリーサンはライデンに確認した。
「支部長、そのダンジョン、今の調査状況はどんな感じなんですか?」
「実はなリーサン、見つかったのは
ライデンが嬉しそうな顔をして言った。その目は力強くリーサンを見ている。
「まじっすか」
「まじっすよ」
「分かりました! すぐに準備をして午後には出発します」
「ああ、そうしてくれ。アンとエナは武器庫から好きな武器を持っていきなさい。私はリーサンともう少し話がしたいから、お前たちは先に準備を進めておいてくれ」
その日の午後、街の北門には三人を見送るための小さな人だかりが出来ていた。
ミト神父は不安そうな顔でアンの
エナは武器よりも魔法が得意とのことで、防具はほとんど身に付けずに一般的な旅装束をしていた。そして、さっきから少し離れたところでずっとリンカと話をしている。
へえ、あの二人仲がいいんだな。リーサンがちらちら盗み見ていると、リンカが何か手紙のような物をエナに渡し、そして二人はそっとハグを交わした。
わお……リーサンが軽く百合の香りに
一通りの挨拶やら注意やらを受けて、三人は教会のシスターや子供たち、街の住人やギルドの職員、北門の衛兵らに見送られながら、いよいよダンジョン調査へと出発した。
街を出てしばらくすると、道の石畳は土に変わり、更に三時間ほど歩くと道すらもない荒野になった。ここはすでに魔物が生息するエリアだ。太陽はまもなく西の山に隠れようとしていた。
「エナ、きみは魔法が専門だと聞いているけど……」
アンの強さに関しては、休暇中に手合わせをしたので確認済みだったが、エナの実力は未知数だったため、リーサンは少し心配していた。
「はい、幼い頃から神父様に教えてもらいました」
「ミト神父に?」
「お姉ちゃんのはセミトランス魔術よ」
「セミトランス魔術? なにそれ」
「神父様が開発した魔術体系です。ミト流魔法術とも言われています」
「神父さん……何もの?」
「神父さまは昔、支部長と冒険をしていたのよっ」
前を歩くアンが楽しそうにくるくる回りながら答える――と同時に、勢い余って地面のでこぼこに
ゴチッ!
おう……こんなワンダフルに転ぶ女の子、初めて見たわ。硬い地面に顔面からダイブする形で転んだアンは、倒れたままおでこを押さえて
「ゴチッていったからな……」
「ゴチッていいましたからね……」
もうっ、調子に乗ってくるくる回るから……と言いながらエナがかけ寄る。アンを抱き起こして座らせると、おでこに手を当てて回復魔法を唱え始めた。
「イタイのイタイの飛んでいけ……」
……大丈夫かその呪文。
エナの銀色の髪がフワッと広がり、水色の瞳が青く光った。手のひらから出る光の粒子がアンの額に吸い込まれていき、みるみる傷が癒されていった。
「すごいな、なんか目が青く光ってた」
「セミトランス魔術の特徴なんです」
リーサンが感心していたのも
しまった、油断した……。
三人の前方にはゴブリンが五匹、後方には魔犬が五匹。たいして強くはない敵だが、数が多いのと、前後から挟んできているのがやっかいだ。
さてどうしたものか……。リーサンが背中の太刀に手をやったとき、エナが立ち上がり両腕を広げた。
「火炎っ」
ドンッ! 重たい音と共に、エナの両手から前後方向に光り輝く炎の球が放たれ、一瞬にして全ての魔物を焼き尽くした。
ふう、と一息ついてエナは両腕を降ろした。そして
エナの目は、まだ青く光っていた。
第八話 ダンジョンへの旅路 ――完
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