第七話 赤い伝説ライデン
五日間の休暇が終わり、ギルド支部での任務初日がやってきた。
今朝はまだ寝ているリーサンの部屋にアンがやってきて、早くギルドに行こうよと
にもかかわらず、一階吹き抜けスペースの中央に置かれている銅像の前では、ギルド職員のリンカが三人の到着を待っていた。まるで、いつ来るのかを知っていたかのようだ。
「おはようございます、ハーキマーク様」
リンカは相変わらず感情が読めない表情で、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をした。
「おはようリンカさん。あっそれと……リーサンでいいよ、呼び方。初めは抵抗あるかもだけど、慣れてしまえば――」
「おはようございます、リーサン」
リンカは何のためらいもなく、もう一度お辞儀をしながら挨拶をした。
この人に練習は必要なさそうだな。
「ところで、アンは一緒ではないのですか?」
「あれっ、おかしいな、さっきまでいたのに」
三人がロビーをキョロキョロと見渡してもアンは見当たらない。リンカはまあいいでしょうと言うと、コホンと小さく咳払いをして、今日の予定を説明し始めた。
「今日はライデン支部長からミッションの詳細説明を受けて下さい。まず初めに私と一緒に秘書室へ行って面会申請書を記入し、それを秘書室長に――」
リンカの説明途中でリーサンが口を挟んだ。
「あの……手続きが結構たいへんそうだけど、おれライデンさんとはそこそこ顔見知りだから、直接訪問しても大丈夫だと思うよ」
「それは存じております」
リンカは少し怒ったような顔で言った。
「いかなる時も規則が絶対だとは思いませんが……でも、守ることが出来るときには守っておくべきだと思うのです」
ひとつのミスが命に関わるギルドの仕事。リンカの言い分はまったく正しい。リーサンは初日から緊張感が足りていなかった自分を恥ずかしく思い、リンカに詫びた。
「君の言う通りだ……すまなかった」
リンカは少しだけ微笑むと、説明を再開した。
「面会申請書が秘書室長によって決裁されましたら、指定された時間に支部長室へ行って下さい。私は同行しませんが、以後はライデン支部長のご指示にしたがって行動して下さい。以上、何か質問はございますか?」
リンカが小首をかしげてリーサンの質問を待っているとき、ロビーの奥に見える二階の廊下から大きな声がした。
「おーいリーサン、来たな!」
その太い声の
「極秘ミッションの話がしたいんだ! 時間があるときに私の部屋へ来てくれ!」
そう言うや否や、片手を軽く上げて支部長室の方へと消えてしまった。周囲の人は、極秘ミッションだと……? あの人が赤い伝説のライデンか……などとざわついていた。
「リンカさん……面会申請書はどうしよ?」
リーサンがそう尋ねると、リンカは珍しく苦笑いしながら言った。
「もう……あなたは特別ですからね」
リーサンとエナが支部長室へ入ると、大きなデスクの椅子にライデンが座っていた。
赤い髪と目をした伝説級
「で……何してるんすか?」
「いや……三つ編みのおさげにしてほしいって言うから」
アンがライデンにうなじを見せるような姿勢で立っていた。ライデンは大きな体を猫背にしながら、そのゴツゴツとした手で、アンのクリーム色の髪を丁寧に三つ編みに編んでいた。
「アンったらもう! 支部長さんに何てことさせてるの!?」
エナが両手で口元を押さえて叫んだ。
「いや構わんよ、いつものことだから」
「はうっ……い、いつも!? どおりでなんかギルドにいるときに限って、よく髪型が変わるなぁと……申し訳ございません!」
「エナ、違和感のあるところに原因ありだ。自分の無意識を認識できていたのは素晴らしいことだよ。その調子で引き続き精進しなさい」
レジェンドになぜかいい感じに褒められたエナは、ご指導ありがとうございますとか言いながら、深々と頭を下げた。
「私てっきり、リンカさんか受付のお姉さんがやってくれてるのかと思ってました……」
「原因は私だったな! ぬはははは」
ぬははじゃねーよロリコンジジイ、エナを驚かせやがって。リーサンは心の中で
部屋の中央に置かれたソファーテーブルの上には、飲みかけのジュースやお菓子が散らかっていた。アンは先にこの部屋に来て、くつろいでいたようだ。
「アンはよく部屋に遊びに来てくれるんでなぁ」
孫か! リーサンは心の中でつっこんだ。
第七話 赤い伝説ライデン ――完
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