第二話 ギルド職員リンカ

 ギルドの建物に入ると、そこは吹き抜けの共用スペースになっていた。


「へえ、意外と広いんだなぁ。人も多くて活気がある」


 剣や弓を持った軽武装の探索者シーカーや冒険者をはじめ、店を出して働く人々、ギルド職員、それにギルドに出入りする業者などで賑わっていた。


「ハーキマーク様ですね? お待ちしておりました」


 到着後にリーサンの対応にあたってくれたのは、いかにも真面目そうな女性のギルド職員だった。濃い茶色のショートヘアで、眼鏡をかけ、誰にも似合わないと悪評高いギルド制服を完璧に着こなしている。


 このは真面目すぎて人生の楽しみを逃してしまうタイプだな……。第一印象で勝手な評価をしながら、リーサンは目の前の少し不機嫌そうな女性を見ていた。


 彼女はリーサンの業務を全面的にサポートする担当とのことで、名前をリンカ=オーリンと名乗った。


 年齢は自分より少し下といったところか……。メガネを外せば、実はかなり美人だぞこの人。いや違う、かわいい系だな。化粧してないのに肌すごく綺麗だし。いやあしかし……胸に目がいってしまう。ギルドの制服でこれだけ目を引くとはなかなか……。もったいないなぁ。独身かなぁ。


 リーサンがそんなことを考えていると、リンカはコホンと一つ咳払いをして口を開いた。ちなみに咳払いする時に少し漏れ出る声がかわいい。

 

「ハーキマーク様、長旅でさぞお疲れでしょう。どれくらいかかりましたか?」


 少女のような可愛らしい声をしているが、しかしリンカは無表情で淡々たんたんと話す。


「一ヶ月かかりましたね。森で野宿をしたり大変でしたよー、はっははー」


 少しでも早く打ち解けようと、できるだけ明るく答えたが、リンカは何が面白いんだこいつ、とでも言いたげな表情をしていた。


 そしてリンカはまたコホンと一つ咳払いをすると、今後の予定について説明を始めた。やはり咳払いのときに出る小さな声がかわいい。


「住む部屋が見つかるまでは、この街の中央教会に滞在して頂くことになります。なお本日から五日間は休暇が与えられます」


「いきなり休暇ですか?」


「ギルドの規定ですので。休暇の間に旅の疲れを癒し、生活基盤を整えて下さい」


 リンカはさらに説明を続ける。


「休暇が明けた初日には、また私のところに来て下さい。支部長室へご案内します。おそらくその時にライデン支部長からミッションの説明があります」


「わかりました」


「では、今から総務部に行って人事異動の手続きをしましょう。終わる頃には教会からの使いの者も到着していると思いますので」


 そう言うと、リンカはリーサンを二階の事務所フロアに連れて行ってくれた。


「わざわざ教会から迎えが来るんですか?」


「ええ、教会に住む姉妹が迎えに来ます」


 へーそうなんですか、と言いながら手続書類に必要事項を書いていると、またリンカがコホンと咳払いをした。


「……かなりの美人姉妹が迎えに来ます」


 リーサンは書く手を止めてリンカを見上げる。リンカは無表情でリーサンを見ている。


「へえ……そうなんですか」


「そうなんです」




第二話 職員リンカ ――完

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