第一章 孤独の中で

第一話 はじめての街

 大きな荷物を背負ったリーサンは、街を見下ろす丘の道を、ブーツを軽快に鳴らしながら歩いていた。


「ああ、見えて来たな、ギルド第一支部の街だ」


 かねてから希望していたシーカーズギルド第一支部への異動。それが認められ、首都を出発したのが約一ヶ月前のこと。リーサンは今、やっとこの街まで辿たどり着いたのだった。


 第一支部が管轄しているダンジョンには、他にはない特殊で高難易度のものがある。そのダンジョンに挑戦し、そこで新たな発見をしたい、もっと経験を積んで強くなりたい。それこそがリーサンが異動を希望した理由だった。


「なんだ? ずいぶん騒がしいな」

 

 街の入り口の門を通り抜けたところで、守衛の兵士ふたりが魔物と交戦していた。人々が叫び声をあげながら逃げている。魔物が街に入り込んだのだ。


 魔物の侵入はどの街でもよくあることだ。そのため、門の守衛には熟練の兵士が配置されることが多い。


「誰か……誰か応援を呼んでくれ!」


 しかし今回は状況が違うようだ。若い兵士が剣と盾を構えながら、恐怖に引きつった顔で周囲に応援を求めている。もう一人の兵士は、すでに負傷していて足元がふらついている。


「これはまずいぞ」


 熊ほどの大きさのゴブリンが三体、棍棒や斧を振り上げて、今にも兵士にとどめの一撃を振り下ろそうとしていた。


 ピィーー!!


 リーサンは指笛を強く吹き鳴らしながらゴブリン達の方へ歩み寄り、同時に右手で背中の太刀たちを抜いた。そして三体のゴブリンが黄色い目でこちらを見たその瞬間――


 キンッ


 軽い金属音とともに、一番大きなゴブリンの首と片腕が宙を舞った。リーサンは振り抜いた刀をすぐ両手持ちにして、頭の上に横一文字いちもんじに構える。そこにもう一体が振り下ろした斧が襲いかかる。


 にぶい音が響き渡ったが、リーサンの太刀は全く動じない。そして斧をはじかれてよろけるゴブリンを袈裟けさ斬りで真っ二つにし、さらに返しの一太刀ひとたちで最後のゴブリンを斬り上げた。


 あっというまの出来事だった。斬られた魔物は三体とも地面に倒れ、その体は光を発しながら昇華しょうかしていった。


「た、助かりました、ありがとうございます」


 若い兵士が泣きそうな顔で礼を言った。


「いや、いいんだ。怪我はないかい?」


 もう一人の兵士は負傷していたが、近くにいた人から回復魔法をかけてもらっていた。リーサンはこれを見て安心した。彼は剣技けんぎには自信があるのだが、魔法は全くできない。


「ところで、ギルド支部に行きたいんだけど……」


 若い兵士は、リーサンが首からぶら下げている金色のギルドシーカー証を見て、小さくつぶやいた。


「そりゃあ、強いわけだ……」


 そこにはシーカーズギルドのエンブレムと、エキスパート級であることを示す三つ星が刻まれていた。


 彼が探索者シーカーの職についたのは十七歳の時だった。


 魔物と戦いながらダンジョンの中を探索し、そしてログライト鉱石を見つけて採取する。単純のようでとても奥深い。潜るたびに新たな発見があり、そして成長があった。


 八年間、ダンジョン探索にのめり込み、気がつけば彼はギルドの中でもトップクラスのシーカー、つまりダンジョン探索のエキスパートになっていた。




第一話 はじめての街 ――完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る