ログライト物語
新島眞琴
プロローグ
リーサン=ハーキマークが初めてダンジョンに
試験官として同行したのは、サン=ライデンというベテラン
「リーサン、記念すべき第一歩だ。お前が扉を開けろ」
リーサンは、まだあどけなさの残る端正な顔に緊張の色を浮かべた。
「はい……ああ、いよいよですね」
ライデンはリーサンの後ろに立ち、腕を組みながら微笑んでいる。
ライデンが初めてダンジョンに潜ったのは十年以上も前、彼が三十代のときだった。その頃はまだギルドも無く、ダンジョンについての情報も全く無かった。だからライデンは、冒険者としての好奇心だけで、命がけでダンジョンに潜っていた。
今では
リーサンは目を閉じ、大きく息を吐いて心を落ち着かせると、金の装飾が
「すごい……ここは、氷の洞窟のようですね」
扉を通った先は、氷の壁と天井に囲まれた広い空間だった。ときどき吹いてくるひんやりした風が、リーサンの茶色がかった髪をなびかせた。
「ああ、なかなか珍しいタイプだぞ」
二人は空間の中央部まで出てきて周囲を見渡した。全面が氷の壁ではあるが、別の場所へとつながっているであろう通路がいくつか見える。
「不思議だ、本当に人工物があるんですね」
地面には石畳が敷かれており、壁には金属とガラスで出来た照明が均等に設置されていて、洞窟内を柔らかな光で照らしていた。
「ここはどちらかと言うと自然系のダンジョンだ。高難易度認定されているダンジョンの中には、城や神殿の遺跡みたいなものや、廃墟の街まるごとなんてのもある」
「誰が作ったんだろう……」
「ダンジョンは入るたびに形が変わる異次元空間、解明されていないことだらけだ。なぜ魔物が
ライデンは少し間を置いてから言った。
「――なぜそこにログライト鉱石があるのか」
低い声が洞窟内に響いた。
「それを解明するのも
「はい、よろしくお願いします」
「課題はたった一つ、このダンジョンのどこかにあるログライト鉱石を採掘し、外の世界まで戻ってくることだ」
ライデンはそう言いながら、小さなランタンをリーサンに渡した。
「はい、分かっています」
「少しでも危険を感じたら引き返せ。それは恥ずべきことではない」
「はい」
「では、行ってこい。俺は扉の外で待っている」
「はい!」
リーサンは一番近くにある通路を選び、ダンジョンの奥へと消えて行った。それを見届けたライデンは扉を出て、外の世界でリーサンを待った。
十二年前、初めてこの世界にダンジョンの扉が現れ、その中でログライトという不思議な鉱石が発見された。
ログライト鉱石には、その小さな石の中に大きなエネルギーを含有するという特性があった。それは、魔法の触媒や魔術道具の燃料として利用できる、特殊なエネルギーだった。
このため、人々の生活は大きく変わった。今やログライト鉱石は、この世界に欠かせないものとなっている。
ライデンが先ほどリーサンに渡したランタンは、ログライト鉱石を燃料にして輝く魔術道具である。しかし燃料は入っていない。つまり、リーサンがランタンを点灯させながら戻ってきたら、試験は合格ということになる。
ライデンは扉のそばで焚き火をしながら、リーサンが無事に帰ってくるのを待っていた。やがて夕陽は西の山に沈み、虫の声と焚き火の
「早いな……!」
予想よりずいぶんと早い帰還だったので、おそらく途中で引き返して来たのだろう。ライデンはそう思った。
リーサンはかなり疲れた様子で、ふらつきながら扉から出てきた。魔物と激しく戦ったのか、顔や体にいくつも傷が付いている。しかし、彼は明るく輝くランタンを高く
ライデンは立ち上がりリーサンに歩み寄った。まずリーサンの体に大きな怪我がないか確認した。そしてログライト鉱石で満たされたランタンをリーサンから受け取ると、普段は
「よくやった、合格だ!」
この日から、リーサンは
そして、それから八年の月日が
プロローグ ――完
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