第10話 秘密の昔話 (『彼女の音が聞こえる』第7・7話)
初出は~なろうにて2015年6月。文字数1800字。
『彼女の音が聞こえる』という小説の番外短編。これだけでも読めるか?
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中学三年の秋、野沢奈々は地元の総合病院にいた。
夕方六時半頃。幼馴染の同級生、北村颯太の見舞いに来ていたのだ。
颯太は一ヶ月程前、部活の帰りの自転車で、信号無視の自動車の交通事故に巻き込まれた。命に別状は無かったものの自転車ごと挟まれた足は、両足とも切断する事となった。
「最近じゃ、お前だけだよな。来てくれるの」
ベッドを曲げ、上体を少し起こした格好で颯太が言った。
「皆、お見舞いに来たがってるんだけど、テストや部活とかで忙しいみたいなの。私はどーせテスト捨ててるし、部活引退したし。暇だから」
奈々は颯太を落ち込ませない様に明るく振舞って言った。
「でもさ、二週間だよ、最初の二週間。後は誰も見舞い来ねえし、あー、友達だとかクラスメイトだとか言ってるけど、こんなもんかって、思っちゃうよ」
暗くなって何も見えなくなった窓を眺めながら颯太は言った。
奈々は何も言えなかった。
颯太の病室は個室で、入院最初の頃は大勢の友達が見舞いに来て、賑やかだった。今日は奈々が見舞いに来ているが、颯太と二人では広すぎて夕闇と共に寂しげな部屋になっていた。
「ホントはさ、もう一杯一杯なんだ。死にたいくらい。奈々、愚痴言っていい?」
窓を見たままそう言う颯太の頬に涙が伝うのが奈々には見て取れた。
「いいよ。私で良かったら、何でも言って。じゃんじゃん言って」
奈々はなるべく明るく言った。
「ホント、あの時死んでれば良かったよ。これから先の俺の将来に何がある。陸上部で毎日走ってた筈の俺の足が無いんだぜ。小学校の頃から続けてきた、数年間が一瞬で無駄。ハハ」
颯太はそう言って笑いながら続けて言った。
「これから先だってどうなる? 普通の学校には行けないさ。皆が高校行ってる時俺は何してる?きっと人目を気にして引籠もってるのさ。この病院を退院したら、きっと外が怖くなるんだ。そして皆が楽しそうに過ごす高校生活を恨む。皆きっと恋人とかも出来るだろうし、その後大学進学したり、就職したり、人生が続くんだ。そのうち結婚だってするんだろうな」
ここまで言って、颯太は急に下を向いて黙った。
「颯太君?」
奈々が呟く。
「う…うぅ…」
呻きながら颯太の目から涙がポタポタと白い病院の布団に落ちて染みた。
「俺、結婚とか出来るかなぁ。俺、まだ中三で、普通ならこれから高校とか、大学とか、一番楽しい時期なのに。彼女なんかも、一生出来ないんだろうな。今一番性欲とか凄い時期なのに、俺、俺、車椅子じゃ、風俗とかも行けないだろうな。誰も相手してくれない。みっともないや。みじめだ…」
そう言いながら颯太は止まらない涙を一所懸命拭い去ろうとした。
幼馴染というだけで特別な感情は持っていなかったのだが、颯太を見て、奈々は凄く可哀想だと思った。
「いいよ」
奈々はそう言うと、颯太のベッドの布団を剥ぎ、颯太のパジャマの下をすばやく引き下ろした。
奈々の手が軽く間接的に触れただけで、颯太は勃起した。
奈々はベッドの横に立ち、スカートに手を入れ、下着を脱いだ。
そして、ベッドの上に上がり、颯太の上で膝立ちになった。
スカートの裾を持ち、
「きっと良い事もあるから」
と、微笑みながら言うと、静かに颯太に跨るように腰を下げ始めた。
「ああ…」
颯太と奈々が触れた瞬間、颯太は微かに声をあげた。
二人は繋がったまま、二~三分動かないでいた。
その時だった。
「何してるの!」
突然ドアを開けた看護婦がビックリして叫んだ。
「こんな所で!」
叫びながら飛んできた看護婦は奈々を羽交い絞めにして颯太から引き離した。
「ハハ…ハハ…」
颯太は笑っていた。
奈々は床にひれ伏しながら泣いていた。
次の日にはクラスで奈々がヤリマンだと言う噂が流れ始めた。
姉がその病院で看護婦をしているという子がクラスにいたのだ。
女子の間では病院でしてたと言う話が男子に届く頃には奈々が誰とでも何処でもやると言う噂に変わったのだ。
しかし、その噂も一週間程で消えた。
北村颯太が自殺したからだ。
当然奈々はその一週間病院にはお見舞いに行っていない。
原因は謎だった。
奈々の病院での行動は親にも伝わっていた。
高校は地元にも入れる所があったが、あえて三十キロ程離れたこの辺では一番大きい街の私立女子高にしたのだった。中学時代の奈々をなるべく知っている人がいない様にと。
そして奈々も北村颯太の事を忘れていた六月。
演劇部の関係でトランペットを川原で朝練習している時、
出会った。
おわり。
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