第6話 救いようが無い話
初出は~なろうにて2015年5月。
文字数は1400字程度。
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何て事だ!息子が虐められている?
何故俺に言う? 何故妻じゃなく俺が息子を探さなくちゃいけない?
正直仕事で疲れていて深夜に車を出すのも辛かった。
事の発端はこうだ。車の隣の席にいる息子の友人剛君が深夜突然訪ねて来て
「幸一君が自殺しようとしています!」
と言い、俺の腕をひっぱり外へ連れ出そうとしたのだ。俺の隣に妻もいたと言うのに。
しょうがなく妻には警察に連絡してもらうよう頼み、俺は息子の友人剛君と車で息子を探しに飛び出した。
全くいい年なんだから自分の事は自分でなんとかしてくれよ。
「それで幸一はなんで自殺するんだい?虐めとか?」
そう言うと俺はタバコを口に咥えようとして隣を見て吸うのを止めた。
中学生の未成年の隣で吸うのは拙いかと思ったからだ。
剛君が言う。
「そうです。虐められてました。それで今日皆の前で幸一君が言ったんです。マンションから飛び降りて死んでやるって。だから多分佐々木の住んでいるマンションです」
「佐々木?」
俺は思わず聞き返す。
「そいつが一番幸一君を虐めてました」
剛君のはきはきとした喋りに少し違和感を感じた俺は
「君は虐めてなかったの?」
と、聞いてみた。
「僕は…見て見ない振りをしていました。だから今、後悔してます」
「ああ…」
聞いてはいけない事を聞いたようだった。
それから剛君の言う通り車を進め、程なく佐々木とやらのマンションに着いた。
問題はうちの馬鹿息子がマンションの何処にいるかだが、
「多分屋上です」
剛君が言った。
マンションの最上階から屋上に続く階段へと着いた。
階段の先を見ると屋上への扉は開かれている。やはりここなのか?
すると
「なんで親父なんか連れて来た!」
幸一の声が開かれた扉の裏から聞こえると、スッと姿が現れた。
「幸一!」
咄嗟に声が出た。
「幸一君帰ろうよう。こんなとこで死んだら関係ない色んな人に迷惑がかかるよ」
剛君が言う。
そうだ何か言って説得しなければいけない。
「なんて馬鹿なんだ! 死んだら終わりだぞ! そんな事も分らないのか!」
「だから親父は!」
俺の言葉に反応して幸一が何か言おうとした瞬間、剛君が凄い速さで階段を駆け上がり、上にいた幸一の腕を捕まえた。俺も急いで階段を上がる。
話しなんて無意味だ。どうせ皆自分の都合の良い事しか言わない。要は押さえつけて家に連れ帰れば良いのだ。そう思い俺も押さえ込もうと近づいた瞬間、幸一が力任せに腕を振り、剛君を振り払った。
振り払われた剛君はよろめき、近づいて来た俺の脚に足を引っ掛け、
ドカドカドカ!
階段を転げ落ちてしまった。
倒れた剛君は気絶してるのかピクリとも動かない。
頭をぶつけたのか、頭部から階段下の通路に赤い血の色が流れているのが見えた。
「大変だ! 救急車を呼ばないと! 死んでないよな? 生きてるよな?」
そう言うと俺は急いで階段を降り、剛君の元へ駆け寄った。
「あははははははは」
頭上から幸一の大きな笑い声が聞こえた。こいつは頭がおかしくなったのかと、剛君の元に駆け寄りながら俺は階段上の幸一の方を見た。
「ありがとう親父。こいつが僕を一番虐めてたのさ。だからこいつの棲んでいるマンションで自殺してやるって言ってやったら、まさか親父連れて来るとはね。こいつは死んだよ。死ぬよ。これで俺は助かる。親父は刑務所行きだろうけどね。ありがとう親父。親父役に立ったよ。ははははははは」
程なく妻の連絡した警察が到着した。
おわり
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