第17話 ままばば?
小学校の低学年のころには「白雪姫」と「シンデレラ」(原作ではなく、子供向けに書き直されたもの)を読み、高学年になってから「落窪物語」(もちろん、子供向けの現代語で書かれたもの)を読めば、誰かに教えられなくても、わかっていた。「ままはは」というのは意地悪なものだと。
もっとも、物語のお姫様とは違い、実際の「ままこ」は、おとなしく黙っていじめられてはいない。
私の父親は「ままこ」である。拙作「ギフト」に登場する永井は私の父親がモデルなのだが、父親は三歳の時に、実母を亡くしており、後妻にきたK子さんとの折り合いが悪かった。
父親は、私が見ていても、「おばはん!」とK子さんに向かって言うのである。K子さんも負けてはいない。「私の子はT子とHだけだ。」と言ってはばからない。誰かが、子供の私に説明してくれたわけではないのだが、小学生のころには、特殊な人間関係を理解していた。そうか……K子さんは、「ままばば」なのだと。
K子さんとは話しをした記憶がない。父親は結婚と同時に生家を出ている。本業の教師としての仕事のかたわらに、生家の農業を手伝うために、近所に分家したのだが、父親の祖父母(私の曽祖父母)が亡くなると、私が本家に行く機会はほとんどなかった。たまにK子さんと顔をあわせても、お互い口をきくこともない。「おばはん!」と言ってはばからないような義理の息子の娘なのだから、さもありなん、と子供心に納得していた。
小学校の五年生くらいの時だ。母親から一枚のワンピースをわたされた。K子さんから父親にわたされたものらしかった。怪訝に思いながら着ると、白地に小花柄で、胸のヨークと裾のフリルが紺色のフレンチのワンピースで、私にぴったりの大きさだった。K子さんの娘のT子さんが生んだ女の子は幼児さんだから、サイズを間違えたわけではなかろう。と、言うことは、私に買ってくれたらしい。
K子さんからもらったワンピースは化繊で肌触りが悪いのが難点だったが、デザインがかわいらしかったので、それから、頻繁に着た。何かしらの言葉があったわけでもなく、手渡しでもらったわけではなかったが、K子さんからの最初で最後の私への贈り物ということになる。
K子さんは、そこそこ、裕福な家に生まれ、女学校を卒業したと聞いていたが、ならば、何故、農家の後妻に来たのだろう。そのあたりの事情は知る由もないが、私のワンピースを選んでくれていた瞬間は、「ままばば」ではなかったと思いたい。
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