第16話 贈り物

 随分前に亡くなった母方の祖母がよく言っていた。

「人に物をあげる時は、お金を惜しんだらだめだ。相手が本当に喜ぶもの、自分がもらって嬉しいものを選ばないといけない。」

ところが、それって、案外、難しいのだ。

 おそらく、私が、小学校三年生ぐらいからだっただろうか。三年間だけ、クリスマスプレゼントをくれた人がいた。贈り主は、どうやら父親の知り合いらしい。最初の年は、クリスマス用にサンタクロースがデザインされた大きな板チョコだった。家族四人で板チョコを割って、少しずつ食べた。チョコレートは美味しかったし、何より、楽しいクリスマスの時間を過ごすことができた。

 その次の年は、色鉛筆のセットだった。ディズニーのキャラクターがあしらわれた赤いケースの中に、40色もの色鉛筆が入っていた。学校に持っていくのは、少々、はばかられた。妬まれたり、いじめられるようなことになっては困ると子供ながらに思い、家で塗り絵をするのに使わせてもらった。私だけでは使い切れず、そのうち、弟も使うようになった。

 いただいた色鉛筆のセットには、薄紅色、青磁色、山吹色……普段、学校で使っている12色の色鉛筆にはないような色がたくさんあって、図画が苦手だった私は、ケースを開けて、色鉛筆をながめて楽しんでいる時間のほうが長かった。大人になった今でも、薄紅色と青磁色が好きで、Tシャツなどは、その二色をよく選ぶ。最近、ネットで、同じ40色の色鉛筆のセットが売りに出されていて、結構の値段がついていたので驚いた。贈り主のおじさん?は、当時、たかが知り合いの子供のために、かなりの金額をだしてくださったに違いない。

 最後の年は、仰天するような贈り物だった。私のためのネグリジェだったのだ。ピンクの生地の上に白いチュールの生地が重ねてあり、胸に赤いリボンが飾ってある。これが、本当にネグリジェなのか?まるで、お姫様のドレスみたいだと驚いた。もちろん、私は毎晩、お姫様気分で気持ちよく床についた。ところが、である。私は非常に寝相が悪く、足の爪を再々、ネグリジェのチュールの生地にひっかけてしまい、あっという間に、チュールがビリビリに破れてしまい、母親に怒られたのだが、それよりも悲しかったのは、その年からサンタクロースが来なくなったことだった。

「今年はぜいたくな物をもらったんだから、サンタクロースは来ないからね。」

と、母親に言われて、今年のクリスマスは致し方ないと子供ながら納得したのだが、次の年も、その次の年もサンタクロースは来なかった。

 小学生にもなればわかっている。サンタクロースは両親である。父親の知り合いのおじさんの豪華すぎるプレゼントが災いしたのだと子供心ながら納得した。おじさんのプレゼントは三年間だけだったが、普段、自分達が絶対に買い与えないようなものを子供にプレゼントされて、両親は気分を害したに違いない。それが証拠に、両親はおじさんに御礼を言いなさい、あるいは御礼の手紙を書きなさいなどと、一言も言わなかったからである。

 ただし、私にとっては、三年間だけだったが、心あたたまるクリスマスプレゼントだったことは間違いない。せっかく、カクヨムという場で書くようになったのだ。謎のおじさんを主人公に短編を書きたいものだと、あれこれと、想像をめぐらしているところである。


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回想列車 簪ぴあの @kanzashipiano

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