第14話 二人のおばあさん

 確か、小学生の時に読んだ本だ。正しい題名も作者の名前も覚えていない。だが、子供心に、強い違和感をおぼえた物語だった。

 二人のおばあさんが、理由あって、赤ちゃんを育てることになる。女の子の赤ちゃんを育てるおばあさんは、赤ちゃんにミルクを飲ませ、おむつをかえ、清潔な服を着せるとほうっておく。一方、男の赤ちゃんを育てるおばあさんはミルクを飲ませて、おむつをかえ、着替えをさせると、その後は赤ちゃんと遊んであげる。

 学校に行くようになると、女の子は一人で通うが、男の子には、おばあさんが付き添う。結末は、女の子はしっかりとした女性に成長して、男の子はどうしようもない道楽者になった、というものだ。

 その本のあとがきは、当然ながら、しっかりとした女性に育てあげたほうのおばあさんを賛美する内容だった。このあとがきにも、私は違和感をおぼえた。

 随分と長い間、二人のおばあさんの物語のことを忘れていたが、ふと、思い出したのは、最近のニュースのせいだろうか。若い人の「オーバードーズ」が問題になっている。市販薬の過剰摂取など、とんでもないことなのだが、生きづらさをかかえた若い人達が増え続けているということだろう。

 若い人なら、友人がいて、両親も、場合によっては祖父母も健在だろうにと思いがちだ。しかし、本当のところは、悩みを聞いてくれたり、辛い時に寄り添ってくれる人がいないのかもしれない。

 物語に話しをもどすと、私は、いまだに、男の子に寄り添うように育てたおばあさんのほうが、道楽者になった男性に悩まされて、不幸になるという結末に納得していないのだ。

 私の母は、厳しい人で、女の子を育てたおばあさんにそっくりだと、物語を読んだ時に思った。私がしっかりとした女性に成長したかと問われたら、答えは否だ。多くの人達に助けていただいて今がある。

 もちろん、子供を育てるにあたり、物事の善悪や、我慢は教えなければならない。しかしながら、人はそれほど強くはない。親にたっぷりと愛されて、護られて、そのことを心から実感する。その経験がベースにあってこその生きて行く力だと思うのだ。

 

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