第9話 図書室
仮にも、カクヨムで書いている人間の言うことかとお叱りをうけるかもしれないが、私は格別に読書が好きというわけではなかった。家にまったく本がなかったわけではないが、何を犠牲にしても、自分の子供に本を買い与えるような両親ではなかったし、そもそも、両親が本を読んでいる姿は見たことがない。その環境で、本好きの子供になるわけもなかろうと思っている。
それでも、小学校高学年の時は、図書室で本を借りるようになった。小学校の図書室に置いてある本のなかで人気があったのは、ポプラ社の江戸川乱歩の明智小五郎シリーズとモーリス・ルブラン、いや、南洋一郎のアルセーヌ・ルパンシリーズだった。
私のヒーローはルパン!変装の名人で、女性や子供に優しい。義賊のようなイメージだった。子供のころには気づかなかったが、南洋一郎訳とは書いていなかった。当然のことながら、原作とは大きく違うらしく、子供に読ませてもいいように手を加えてあるとあとで知った。
子供用に、短く書き直した世界の名作シリーズも読んでいて楽しかった。とりわけ好きになったのが「赤毛のアン」だ。後に、村岡花子が訳した原作を読むようになった。中でもたまらなく好きなのが、マリラなのだ。主人公のアンに、何かと口うるさく言うのだが、ユーモアがある。一番好きなのが、
「もう石盤を人の頭でたたきわるようなことをしないでもらいたいね。」
というセリフだ。
男の子に赤毛をからかわれて、石盤で相手の頭をたたいてしまい、先生とトラブルになったアンは学校に行かなくなる。ところが、親友との交流を禁止されたことをきっかけに、学校にもどることにしたアンに、マリラがかけた言葉である。本来なら、
「石盤で人の頭をたたくんじゃないよ。」
というべきなのだが。
ガミガミと怒るだけの大人なら、私の周囲にたくさんいた。マリラはアンの気持ちをくんだうえで、現実的なアドバイスをしている。アンへの愛情がたっぷりなマシュウも魅力的なのだが、私はマリラが大好きなのだ。大人になってからも、その後、他の本を読むようになってからも、このマリラのセリフは私のなかで、色あせることなく、よく思い出した。
ルパンシリーズに関しては、原作を読むことはなく今にいたっている。ルパンに関しては、小学生の私が憧れていたヒーローのままのほうが良いような気がしている。
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