第8話 鬼軍曹
スポ根アニメのワンシーンではない………念のため。私が、小学校五年から六年の時の体育の授業の光景である。
ボールに触る前には数多くのハードルがあった。うさぎとびでグラウンドを一周。それが終わると、二人一組になり、相方に両足を持ってもらい、腕だけで歩く。当然のことながら、交代して、今度は、相方の両足を持って歩く。これもグラウンドを一周。うんていに登り棒。さすがに匍匐前進はなかったが。
うんていで、途中で落ちたりすると、
「そこ、最初からやり直し!」、
登り棒では、
「腕だけを使って登りなさい!」、
と、M先生のどなり声がグラウンドにひびく。後でわかったことだが、うさぎとびは、体に負担がかかるからと、やめるように言われ始めていた頃だったらしい。
小学校の五年六年の担任のM先生は記憶に残る人物である。同じ学年の担任のT先生は、M先生と同年代のおばちゃんだが、ふんわりとした雰囲気で優しいし、K先生、O先生は若い男性で、お兄ちゃんのように親しみやすい感じ。要するに、私達だけが貧乏くじを引いたことになる。
運動会の行進の練習では、M先生は一糸乱れぬ美しい行進を要求する。「全体、止まれ!一、ニ!」と号令がかかれば、足をとめなければならないのだが、誰かがとめそこなう。ドスッ!と音がするのだ。「回れ右!」「右向け右!」片足を軸に回転できない子が必ずいる。その度に「やり直し!」とM先生はヒステリックに叫ぶ。運動会の練習は、当然のことながら、学年全体で行われる。今さらだが、他の先生はどうしていたのだろうか?M先生に意見を言える雰囲気ではなかったのだろうか?
さながら鬼軍曹のようなM先生の体育の時間はさんざんだったが、その後、中学校、高校の体育の時間は、本当に穏やかなものだった。後に、大学で、友人達から、中学校、高校の体育の時間に、体育教師の理不尽ないじめにあった話しを山ほど聞いた。体育に関しては、私は小学校五年六年の体育で、一生分の苦労をしたのかもしれない。
最近、某芸能事務所が、話題になっている。新旧の社長に、
「あなたは知らなかったのか?」
と、厳しい質問がされていたが、では、私達はどうだろう。誰かを守るために、どれだけ声をあげることができるだろう。当たり障りなくやり過ごす、標的にならないように上手に逃げる、そんな、処世術が、自分自身、小学生の時から、知らず知らずのうちに身についていたと思うと、なんとも言えない気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます