第3話 終わりの会

 随分、前のことだが、職場の同僚の女性が、

「私、小学校の終わりの会って、大嫌いなのよね。」

と言ったことがあった。何でも、その女性の、当時小学生の娘さんによれば、クラスの中でケンカになると、終わりの会で言うからね、というのが殺し文句になっているというのだ。

「ケンカなら、その場で決着をつければいいものを、終わりの会まで腹に持っておいて、クラスのみんなの前で、相手を糾弾するなんて、子供のくせに陰険極まりない。」

というのが彼女の主張であった。

 ふと、このことを思い出して、自分自身の記憶をたどると、終わりの会が異常に長引き、クラス全員が遅くまで帰れなかったことがあった。

 六年生の時だったと思う。恋占いが一部の女子の間で流行ったことがあった。占いによると、○○さんと、△△くんが将来、結婚するなどと、他愛もないことで騒いでいたようだった。だが、とんでもない相手とくっつけられた当事者にとっては、ことは重大で、終わりの会で、恋占いをしたOさんが名指しで批判された。

 もちろん、担任の先生がその場にいる。だが、教師といっても、第2話で書いたように、子供をいじめる輩である。

「自分のしたことをみんなに言いなさい。」

とOさんにヒステリックな口調で命じた。O さんは、歯をくいしばって、一言も言わない。おそらく、彼女は悪いことをしたつもりはなく、みんなの前で糾弾されるのが、どうしても納得がいかなかったのだろう。一時間もたつと、クラスのみんなは、早く帰りたくてソワソワとし始めた。だが、先生は

Oさんに同じことを要求し続けた。辺りが薄暗くなってきたころ、Oさんはついにポロポロと涙をこぼし、

「SさんとTくんのことを言いました。」

と言った。恋占いの内容は口にしなかった。

 今、思うと、先生は、終わりの会で問題にする前に、関係のあった子供達に事情を聞き、恋占いをすることは悪いことではないが、その結果、人によっては不愉快に思ったり、心が傷つくことがあると教えればよかっただけのことだ。恋占いをしていた女子は他にもいたはずなのに、Oさんだけを悪者にしたことも良くない。みんなの前で、恋占いの内容を言わなかったOさんのほうが、先生よりも、よっぽど大人だ。

 終わりの会なるものが、今も存在するのかはわからないし、良くないものだと決めつけるつもりはない。あることを、クラス全員で考えてみることも必要だろう。本来、終わりの会は、特定の個人を糾弾するのではなく、物事をより良い方向に進めるための場であるべきだ。そのキーマンとしての役目を担うのは、まず、担任の教師だろう。もちろん、リーダーシップをとってくれる子供達もいるだろう。

 終わりの会で、歯をくいしばって一人で耐えていた彼女、その後どうしているだろう。どんな大人になっただろうか。

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