水底

写真展で、水中から水面を写した写真を見た。


その時何故か、私の耳にゴポゴポと空気が水面に上がっていく音が聞こえる。


いつの間にか私の体は、静かに水底へと沈んで行った。


明るく煌めく水面が、キラキラと光ながら遠ざかって行く。


少しずつ周りの色は暗くなって、明るい水色から群青に、群青から濃紺に、濃紺から漆黒へと変わっていった。


その間に聞こえていた水が流れる音も、少しづつ消えていって、静かな深い水底へと落ちていく。


水底にポスっと私の体は落ち着いて、しばらく闇の中に耳を澄ませる。


ただただ音のない暗い闇の中で、私の心はひたすらに穏やかになっていった。


しばらくすると、私の体は水底を離れて水面に向かってゆっくりと浮上していく。


今度はじっくりと周りの色の変化を楽しんだ。


どこかで青色には200以上の違いあると聞いたことを思い出す。


色が明るくなる程に、水面から伸びる一条の光が、私の体を吸い上げているように感じる。


ふと、水面に上がらずに煌めく水面を、少し下の水中から眺めていたいと思った。


水面が揺れる度に光が煌めき、影も変わって、見ていて飽きない。


それでも、私の体はゆっくりと浮上していく。


きっと水面から顔を出せば、白さに目が眩んで私は顔を顰めるだろう。


ほんの少しだけ、水底の漆黒を思い出して戻りたくなる。


明るさに顰めた顔で、眩むような光に慣らした目を、ゆっくりと開く。


心配げな表情で困った様に眉を下げ切った貴方の顔が、私を覗き込んでいた。


あんまりにも、下がりきった眉が面白くて、笑ってしまう。


私の笑った顔に安堵した様に微笑む貴方の手をそっと握って、私はまた、新しい写真を見るために歩き出した。

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a little story for you あんとんぱんこ @anpontanko

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