あなたに

スマホのアラームで起こされて、ほんのつかの間だけ天井をボヤッと見る。

あなたとの約束を思い出して、がばっと身を起こすとその勢いで掛け布団がベッドから滑り落ちた。

心の中でちぇっと舌打ちしながら、お行儀悪く左足に掛け布団を引っかけてベッドに蹴り上げる。

ベッドの横のチェストの引き出しを引っ張り出して、今日の服を取り上げる。

薄桃色のレースで胸元を隠すタンクトップとサラッとした素材の胸元の開いた被るタイプの白いシャツ、キャメル色のマーメイドのロングスカート。

玄関には、昨日のうちに出しておいたお気に入りの桜色の7センチのパンプス。

あなたの好みを考慮して頭の中で用意しておいた着替えをリビングの椅子に引っかけた。

顔を洗って歯を磨きながら今日のお弁当の中身を頭の中で組み上げていく。

昨日から仕込んで、冷えても美味しい様に味付けをしておいた鶏肉も、カットしておいた野菜を巻くための豚肉の解凍も出来てるはずだし、ご飯はおにぎり用に夜炊いたし、大丈夫。

お弁当の献立は、全部あなたが今まで美味しいって残さず食べてくれた中からのチョイス。

サッパリと目を覚ましてリビングのカーテンを開けると、春真っただ中の日差しが私の全身を照らした。

良い天気に気を良くして、ニコニコと台所のカウンターに引っかけてあるエプロンを装着して寝巻のまま台所に立つ。

手を洗って、おにぎり用のご飯を握る。

三角おにぎりより丸いサッカーボール形が好きなあなた用の大きめと、小さな私用の三角おにぎり。

ゆかり、高菜、のりたま、三色振りかけて華やかに。

卵焼きの中身は、ほうれん草と明太子の2種類で。

味を付けた鶏肉に片栗粉でから揚げに、ニンジンといんげんを豚肉で巻いて甘辛く。

鼻歌を歌いながらの作業は、するすると進んでお弁当の中身たちは出揃った。

お弁当箱に詰める前に熱を取る時間で、着替えと髪のセットに薄化粧をする。

あなたの好きな高めのポニーテールに髪をまとめてあげて、一目惚れをしてあなたに呆れられながらも買ってもらったベージュの大きなリボンのバレッタで留める。

日焼け止めの下地をしっかりなじませてから、ヨレの少ないリキッドファンでを薄付きに。

アイメイクは、お花見デートに似合うピンクと決めてマスカラを控えめに。

薄っすらと頬にチークを乗せてから、唇にはほんのり朱色を混ぜた明るいピンクにグロスを重ねた。

お花見デートの約束をしてから今の今まで、頭の隅にはずっとあなたがいて、この一週間をてんてこ舞いにしてくれた。

楽しくて忙しくて大慌てな一週間の集大成が、あなたに見て貰える時を待ってる。

お弁当箱に料理たちを詰めて、二人分のお箸を用意して、あなた用のあったかいブラックコーヒーと私のアップルティーを水筒に入れたら、ランチ用のバックに入れてお弁当の準備は終わった。

あなたが迎えに来るまでの一時間弱は、ずっとソワソワで落ち着かない。

ソファに座ってスマホを握りしめて、あなたからの「下に着いたよ」のLINEを待っている間に、テレビからの天気予報で「今日は一日中晴れて気持ちのいいお花見日和になるでしょう」の言葉を聞いて嬉しくなる。

そっと隣に置いたお弁当の入ったランチバックを撫でて、笑顔になる。

あなたの好きなものや好きな事を考えてドキドキしたりソワソワしたりで、過ぎていく毎日が楽しくて仕方ない。

出会ってくれたこと、好きに好きで返してくれたこと、今までの楽しかったことも、少しのケンカや大変だったことも、あなたとだから愛おしいと思える。

きっと今日も、楽しくて嬉しくて幸せな時間が待ってる。

早く迎えに来てくれないかな・・・早く会いたい。

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