第7話 諦めた夢

 銀玉は様々な釘に翻弄ほんろうされながらも、ヘソまで辿たどり着かなければならない。


 デジパチの大まかなヘソ入賞ルートを説明すると、盤面北西のブッコミ釘付近に玉を落とし、次に玉を弾ませながら下に落とす役割の寄り釘を通過させたら、玉の分岐点というべき風車に到達する。風車を右に曲がればオッケー。左だとほぼハズレ、まれに数球だけ払い戻しされる小賞球口に入るだけだ。右に選択された玉は数か所のこぼし穴がある道釘を緩やかに転がり、最終関門のジャンプ釘へ。ここで、トランポリン的に玉を小ジャンプさせ、上手くヘソに入れることができれば、晴れてデジタル始動――確率一分の一に設定されてある巨大パチンコ台では、必然的に大当たりとなる。




 銀玉はゲートを通過し、いざパチンコ台の世界へ。


 だが、銀玉は直ぐに異変に気付いた。勢いが余りに付きすぎているのだ。


 エンマ様のわざとしか思えないほどの加減ミス。このままでは、銀玉はブッコミの先にある中央上部の天釘てんくぎを越え、盤面右側に向かってしまう。右側には大当たり用の出玉獲得口があるだけで、決してヘソには向かわない。


 ――銀玉にとって、大ピンチな状況だ。


「くっそー、落ちろ、落ちろよ!」


 銀玉は必死に天釘を越えるなと阿鼻叫喚あびきょうかんに叫び続けた。


 すると、不思議と銀玉は減速し、天釘にぶつかった。それにより、進路が逆方向に変わり、無事銀玉はヘソに向かう盤面左側のルートへ。


「ふう、助かった……。どうやら、ある程度は自分で動きを調整できそうだ」


 推進力の調整可能。銀次にとっては一筋の光明。勝機が見えて来たことを銀次は強く認識した。


「これはイケる!」

 と銀次は右拳を握った。――銀玉になっているので、心の中でだが。


「それにしても、あの時は右側に行ってしまったな……」


 銀次は銀玉になっている現状と、自身の過去を照らし合わせていた。




 ――銀次の幼き頃の夢は、野球選手になることだった。小学校低学年から中学三年まで地元の野球クラブに入り、銀次は白球を追いかけ続けた。


 だが、上には上がいた。年上、同年代、年下と自身より上手い子がいて、その存在が銀次少年の自信、やる気を奪っていった。


「こいつらみたいなのがプロに行くんだろうな。俺には無理だな……」


 心が折れた銀次少年は、諦めの境地に達してしまう。そして、中学三年の夏に野球クラブを辞め、野球選手になる夢を諦めてしまった――




「こんな時に、何で昔のことを……」


 銀次は呆気あっけに取られそうになるのをグッと堪えた。そんな心内にお構いなく、無情にも銀玉は勢いよく転がり続けた。

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