第6話 銀玉

「判決は?」


「このイベントの結果次第だ!」


 エンマ様は高々と右腕を上げ、指パッチンをした。すると、エンマ様と銀次の中間地点の上空に円形の異空間ができ、そこから巨大物体が落ちてきた。


「ガッシャーン」


 M5ほどの地震のような巨大物体の落下衝撃。銀次はそれにたじろぎながらも、巨大物体の正体を確認した。


 百メートル以上の高さがある長方体の台枠。大きさは数百倍だが、銀次にとっては見慣れた物だった。銀次はノーシンキングタイムで結論を出した。


「これって、パチンコ台だよな……」


「ご明察! 盤面ばんめん中央下のヘソに玉を入れたら液晶が始動する、所謂いわゆるデジパチという代物しろものだ。因みにイベント設定として、確率は一分の一……つまり、ヘソに玉を入れることができれば、大当たり。天国行きだ。――逆に入れることができなければ……もうお分かりだろう?」


 エンマ様は口元を歪ませ、含み笑いをした。


「まあ、何とかなるでしょ」


 銀次はエンマ様の表情の変遷など気にも留めず、安堵感に包まれた表情で答えた。


 四円パチンコなら、千円で二十回はヘソに玉を入れられる。デジパチを一回転させることなんて容易い、と経験則で判断したためだ。



 ――だが……。


「ああ、言い忘れていたけど、玉は一球のみだからな」


「い、一球のみ⁉」


「そして玉は……お前自身だ!」


 エンマ様はドーンと右手の人差し指を銀次に向けて突き出した。笑えない条件を迫られたマンの銀次は、ただ狼狽えるのみだった。


 銀次は数分間逡巡しゅんじゅんした。




 ――そして、呟いた。


「はあ、マジか……。やるしかねえか……」


 天国行きへ、他に選択肢があるとは到底思えない。銀次は覚悟を決めるしかなかった。


 銀次は台を睨みつけた。――自身をチップにする覚悟はできたぞと言わんばかりに。


「それでは遊技開始するか。――ああ、台選択を忘れていた。どの台にしようか……。水着姿の美女達が魚の群れを誘惑する台か、屈強な漢達が血と汗まみれで戦う台か、それとも――」


「何でもいいよ、そんなの!」


「分かった。やはりここは儂のお気に……いや、ピンのパチプロといった一匹狼に相応しい台にするか。――金色こんじきになるのだ!」


 エンマ様は右腕を銀次や台のある前方に向けて指パッチンした。すると、台がエンマ様の好きそうな版権物はんけんものに様変わりした。


 続けざまに指をならすと、今度は銀次がパチンコ台の射出口しゃしゅつぐちに瞬間移動した。


更にならすと、銀次は直径百七十センチの等身大パチンコ玉へと変化した。


 余りの手際の良さに、

「流石はエンマ様。恐るべき凄腕、プロの技だな」

 と銀次はただ感心するだけだった。


「ストロークはヘソに入りやすいように調整してやるからな。じゃあ、精々頑張れよ」


 エンマ様はやや加減した指パッチンで、銀次なる玉――『銀玉ぎんだま』を発射させた。



 銀玉の大当たりへの道が今始まった――。

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