第5話 判決

 足元すら定かでない暗闇の中、銀次は自我を持たずに歩き続けていた。それは誰かに誘導されるように。


 銀次は傀儡そのものだった。糸で操作され、誰かが設定した目的地へと進むだけの。




 銀次がハッと意識を取り戻すと、立っていたのは、銀次にとって当然足を踏み入れたことのない場所――証言台の前だった。


「何故、こんな所に?」


 困惑しながら、銀次は周りをキョロキョロ見渡した。


 目に映る景色から、テレビで見るような裁判所の中に自身がいることは理解した。証言台も至って普通。


 だが、理解の範囲外な点があった。それはやたらと馬鹿でかいサイズで構成されていた裁判所という点だった。建物の横も後ろも天井も数キロ先なほどに。


 それもそのはず。ここは銀次の遥か前方にいる、超高層ビル以上の身長がある超大男のサイズに合わせた場所なのだ。


 超大男は巨大な木製の机に両肘を乗せて、巨大椅子に座していた。


 銀次が前方を見上げ、その超大男の存在に気付くと、


「うわっ! でけえ、巨人族だ!」


 と慌てふためき、腰を抜かした。


「馬鹿たれ、儂はエンマだ!」


 取り乱した銀次を、超大男――エンマ様は叱責した。


「へ? エンマ様? じゃあ、ここってあの世なの?」


 平静を取り戻した銀次は、エンマ様に尋ねた。


「そうだ。お前はウイスキーのがぶ飲みで急性アルコール中毒になってしまい、そのままぽっくりと、な」


「マジかよ……。それにしても、エンマ様って想像通りのデカさだけど、見た目は普通の人間なんっスね。服も黒のスーツだし」


「それは、ここに訪れる魂は人間ばかりなのだから、こっちも見た目を合わせてな。この服は裁判官の法服ってヤツを死神達にオーダーメイトして作らせたのだ」


「へえ、死神もいるんっスね」


「当然だ。流石に儂一人では、閻王庁の全ての業務をこなせないからな。――それでは、そろそろ本題に入るとするか」


エンマ様は表情を締め直した。


「お前がここに呼ばれたのは、裁判にかけるためだ。天国か地獄か、のな」


「ええ、マジか……。地獄はヤダな……」


「お前はひたすら怠惰で在り続けた。だが、人を陥れる悪事は働いておらん。よって判決は――」

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