第4話 未練の涙

「ファアア……」


 銀次が目を覚ました。辺りはまだ暗く、カーテンの合間から差し込む外灯の明かりだけが唯一の目の頼りだった。


「あれ?」

 と思った銀次はスマホから時刻を確認した。


午前一時を過ぎたばかりだった。


「こんな時間に起きるなんて、珍しいな」


 銀次の中に奇妙な違和感が生じていた。普段布団で一度寝たら六時間以上は起きないロングスリーパーなのに、深夜に目が覚めてしまった。おまけに眠気も完全に覚めている状態。


「酔いが足りなかったのだろう」


 銀次は幾許いくばくかの時間、目や眠気が覚めた理由を思案した結果、そう判断した。そして、布団から上体だけを起こし、ペットの傍に置いてあったウイスキーをラッパでがぶ飲みを始めた。グビグビと音を立てて、琥珀色こはくいろの液体を胃袋に流していく。


「ウッ!」


 すると突然、銀次は体に異変を感じた。すぐさまウイスキーのペットボトルを手から離し、胸を押さえつけた。勢いでウイスキーを大量に飲みすぎたせいで悪酔いの域を超え、彼岸に近しい状態に陥ってしまったのだ。


 もだえ苦しむ銀次。その果てに、銀次は敷布団の上に力なく横たわった。


「もう駄目だな……」


 銀次は悟った。双眸からは現世への未練の涙がこぼれていた。




 ――そして、意識を失った。

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