第3話 昭和な遊び人

 帰りに馴染みのスーパーで、半額シールが貼られた弁当と総菜そうざい、ペットボトルのウイスキーと炭酸水を購入し、銀次は住んでいるボロアパートの自室へと帰宅した。


 真っ暗な室内に入り、明かりを点けた。この瞬間を銀次は堪らなく苦手にしている。それは室内喫煙による黄色塗装が施された壁のクロスがより目立ち、嫌でも目に入ってくるからだ。


「……一流の煙草スプレー芸術家だな、俺。退去の時、大家さんも驚くだろうな……」

 と、この時ばかりはかえりみぬ主義の銀次も反省したりする。


 銀次は部屋着に着替え、敷布団の上に胡坐あぐらをかいた。そして、買ってきたウイスキーと炭酸水の栓を開けた。それらを交互にラッパ飲みし、口の中でハイボール合成させていく。


 この日は炭酸水との組み合わせだが、気分次第でコーラ、カルピス、牛乳などを口内錬成こうないれんせいする。そうやって、銀次はウイスキーのヴァリエーションを楽しんでいるのだ。


 口内錬成の合間に、弁当や総菜をつまむ。銀次にとって弁当や総菜は、飯というよりもただの酒のさかなみたいな物だ。


 弁当や総菜を食べ終わった頃には、銀次は顔が真っ赤、ベロンベロンになっていた。稼働疲れもあいまって、いつもより早く酔いが回ってきたのだ。


 すぐさま、銀次は敷布団に横たわり、毛布に包まった。普段は寝る前にスマホで動画を見たり、SNSで友人と連絡を取り合ったりするのだが、この日はパスにした。 


 毛布に包まると、銀次はあっという間に夢の世界へ旅立った。――大量のダニに添い寝してもらいながら。


 これが銀次の日常だ。銀次は酒、煙草、女、ギャンブルをこよなく愛する、『ちょっと』駄目な男だ。――ただ、昭和スタイルな駄目街道を二つ先の年号である令和で謳歌おうかできる、稀有けうな凄い奴でもある。

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