#41 転校


 7月8日土曜日


 カビゴンが家に戻ってからも、日課のビデオチャットは続いた。



『父親からは「自殺仄めかすとか、やりすぎだ」って怒られた。 でも「俺の時は怒りだけじゃなくて自分自身を反省する気持ちが強くて、復讐とか考えられなかったけど、タダシは自分の手でキッチリやりきったんだな。 方法はホメられた物じゃないけど、その気持ちの持って行き方と行動力は立派だったと思うぞ」って言われた。 多分、ウチの父親もサレた側の人間だから、僕の気持ちに同情してくれてたんだと思う』


「そっか・・・。 最初私も怒りで協力したいって思ったけど、でもカビゴンに比べたらサレた人間じゃない私の怒りなんてちっぽけな物だろうなぁ」


『いや、そんなことは無いと思うよ。 家族だろうが恋人だろうが友達だろうが、信用していた人に裏切られるのはキツイよ。 その信頼度っていうか依存度とか高ければ高いほどにね。 チカ郎だってシオリのことを親友として信頼してたんでしょ? だから僕とチカ郎の間に、どっちが上とか下は無いと思ってるよ』


「ありがとうね、そう言って貰えると、少し気持ちが楽になる」


『やっぱり、罪悪感とか結構あるの?』


「う~ん、正直言うとゼロじゃないかな。でも、後悔はしてないよ。 シオリちゃんがやってたこと見過ごすことは出来なかったし、浮気はたった1度でも私は許せなかったよ。 もしそれを友達だからって見逃してたら、いつか自分を軽蔑するとおもう」


『そうだね。 僕も実際のところ迷いみたいなのは有ったし、僕なりにシオリにはチャンスをあげてたつもりだったんだよね。 でもシオリは逃げて誤魔化してそのチャンスを見逃してた。 だから、僕は実行に移した。  あ、因みに松田たちに関しては、最初から容赦するつもりは無かったけどね』


『ただ最初は攻撃材料が少なくてどうした物かと悩んだけど、松田自身が頭悪くて助かったっていうのが大きかったね。 結局、人のカノジョに手を出すようなヤツは、考えが浅くて短絡的で、チ■■ンでしか物を考えられない様なサルなんだろうな』


「見事なまでに頭の悪い行動の連続だったのは同意するかな。 でも、逮捕されたからって言っても、逆恨みされてるだろうから、いつか逆に復讐されるかもだよ?」


『まぁ、その時はその時だよ。 シャバに出てきた時にそんな余裕あるのかな?って思うし。あんな中途半端な奴なら反社関係とかの繋がりも無いだろうしね。チンピラにもなれないんじゃないかな』


「なんにしても気を付けてよ?」


『うん、了解。 それで、チカ郎にお礼したいんだけど、何か決まった?』


「う~ん・・・夏休みに入ったら」


『うん』


「二人でどこかに遊びに行きたい」


『どこかって?』


「出来ればだけど・・・二泊三日とかで温泉旅行とか?」


『旅行か・・・少し考えさせて貰ってもいい?』


「うん、もちろん」






 ◇◆◇






 7月10日月曜日からもカビゴンは学校を休んでいた。


 夏休みまで2週間あったけど、自分で言ってた通りこのまま休むのだろう。


 のんびりとそう考えて過ごしていた。



 私は予備校に復帰したので、カビゴンとのチャットは水曜と土日だけになっていた。




 そして、夏休み直前の7月19日水曜日


 ビデオチャットで


『小浜さんが居てくれて、ほんと助かったよ。 復讐してなかったとしても、きっと小浜さんに相談すれば精神的に支えて貰えてたと思う。 ありがとうね』


 と、ハンドルネームでは無く本名でお礼を言ってくれた。







 翌日、7月20日木曜日


 この日は終業式の日で、朝のHRで担任代行の教頭先生から


『春日くんが親御さんの仕事の都合で転校することになりました。 春日くんには色々ありまして今も休んでいますが、転校はそのことが理由ではないそうです。 ただ学校に来るのは辛いとのことで、このまま転校することになりました』



 え・・・?

 そんな話、聞いてない

 昨日だってチャットしたし


 HRが終わったら真っ先にカビゴンに電話を掛けた。

 電源が切られているアナウンスだけが流れたので、メッセージを送ったけど既読にはならなかった。




 この日は午前だけの授業で、放課後、急いで職員室へ行き「春日くんのロッカーとか机の荷物を届けたいので、住所を教えて下さい」と言って、教頭先生から住所を教えて貰った。








 学校帰りにカビゴンの家を訪ねると、留守だった。


 その場で再びカビゴンに電話を掛けてみたけど、相変わらず電源は切られていて、メッセージも既読にならないままだった。


 預かっているカビゴンの荷物は、私の家に持って帰った。

 家に帰ってから直ぐに、タブレットの方でもメッセージを送ってみたけど、こちらも既読にならないままだった。







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