#40 完全勝利


 7月6日木曜日


 朝、登校中にシオリちゃんと顔を会わせること無く学校に到着した。


 教室では、そこかしこで昨日暴露されたシオリちゃんの二股の話題が聞こえてて、シオリちゃんと友達だった私も色々聞かれたけど「春日くんが暴露してたことしか知らないよ。 シオリちゃんとは絶交したし」と答えた。


 シオリちゃんは、HRギリギリで教室に入って来た。

 流石に今日は休むと思ってたからビックリしたけど、カバンとか持ってなかったので「あれ?」と思ってシオリちゃんの席を見ると、既にカバンが机の横にかかっていた。


 昨日、ショックで荷物置いたまま帰ったのか

 それとも、今朝教室に来てから空気に耐えられなくてトイレかどこかに避難してたのかな


 後者の様な気がするけど、それにしても昨日の今日で学校に来るとは、中々凄い。

 ただ、その表情は、顔色は悪く終始うつむいて怯えてる様子で、誰とも目を合わせようとはしなかった。


 その様子をカビゴンに報告しようと、HR後に写メを一枚だけこっそり撮影して、そのまま直ぐにカビゴンに送った。


 カビゴンから直ぐに『報告ありがとう。 シオリ、学校に来てるんだね。 なら好都合だから僕も直ぐに追撃始める』と返事があった。


「追撃って、何するつもりなの?」と質問すると


『松田を挑発する。 今日は松田は自宅謹慎だろうから、松田が家でじっと大人しくしていられないような物を松田にプレゼント』


「それってどんなもの?」


『う~ん、女の子のチカ郎には今はちょっと話せないかな。 つまりそういう物ってことだね』


「ごめん、さっぱり解んないんだけど」


『まぁ気にしないで』



 ココで1限目始業のチャイムが鳴り、時間切れとなった。


 結局、カビゴンが松田くんに何を送ったのかは不明のままだった。




 ◇




 お昼休憩になるとシオリちゃんはカバンを持って教室から出て行った。

 多分、そのまま早退だろう。



 私は教室で一人でお弁当を食べた。



 4月の最初、カビゴンと友達になってからほとんど毎日3人で食べていた。

 それが、今やこんな状態に。


 悲しいとか寂しいとかよりも、虚しいというのが一番シックリくる。



 カビゴンとは、戦友というか共犯者というか、普通の友達とはちょっと違う絆みたいな物を感じる。

 だけども、カビゴンは本心とか本当の感情を隠してる様に思う。そのことは寂しく思うけど、学校に居る時と違い二人でチャットしているときは色々な表情を見せてくれるので、信頼してもらえているとは感じていた。


 シオリちゃんという親友を失い、カビゴンという仲間を得た。

 そこに喜びも悲しみも無く、ただ虚しさを感じる。







 この日の放課後は、特に報告をすることが無く、勉強しながらカビゴンとの雑談をした。 カビゴンは勉強道具をホテルに持ってきていなかったらしく、筋トレしながら私と会話をしていた。









 ◇◆◇







 7月7日金曜日


 案の定、シオリちゃんは休んでいた。


 そして、担任代行の教頭先生がやってきてHRが始まると


「昨日、警察から学校へ連絡があり、松田くんが補導された。 知っての通り松田くんは学校からの処分待ちで謹慎中であり、その中での更なる問題行動であるため、より厳しい処分が下されることになります」と説明があった。


 クラスメイトたちから「うわぁ」と声が漏れた。



 これがカビゴンが言ってた「追撃」の効果なんだと直ぐにわかった。

 何を送り付けたかは気になるけど、聞かない方のが良さそうな気もしてきた。







 学校から帰り、カビゴンとチャットを始めると、松田くんが補導されたことを報告した。


 そして、結局私は好奇心に勝てずに、何を送ったのか尋ねた。



『う~ん、一言で言うと、リベンジポルノだね。 シオリが一人でしてる動画からシオリだって判らない場面だけ切り取って、その動画を捨てアドから松田のメールアドレスに送ったんだ。 「相手が悪かったな。 好きな女に弄ばれて、今どんな気持ち?」って言葉を添えてね』


「うわぁ・・・エゲつないね」


『松田が補導された状況が解らないから何とも言えないけど、僕の希望としては松田がシオリに逆恨みして、二人でつぶし合いでもしてくれたら最高だったんだけど』


「シオリちゃんが学校来てたのを”好都合”って言ってたのはどうしてなの?」


『シオリが家に閉じこもってたら、松田がシオリに接触出来ないでしょ?』


「なるほど・・・シオリちゃんは昨日はお昼で早退してたから、松田くんが挑発にのって待ち伏せとかしてたらシオリちゃんに接触してた可能性もあるんだ。 因みに今日は来てなかったよ。 多分このまま1学期の間は出てこれないだろうね」


『まぁ、オマケみたいなものだし、つぶし合いしようが松田一人の自滅だろうが、どっちでもいいけどね』


「じゃあ今度こそ本当に復讐は終わり?」


『そうなるね。 明日には家に戻るよ』


「うん、わかった」


『色々とありがとうね』


「うん、カビゴンもお疲れ様。 ゆっくり休んでね」






 ◇





 翌日、中学のグルチャから情報が入って来た。


 木曜日、早退したシオリちゃんは帰宅中自宅近くで松田くんに襲われかけて、それを近所の人が何人も目撃してたらしく、松田くんはその場でその人たちに取り押さえられて、警察に通報されて逮捕されたらしい。 恐ろしい程にカビゴンの目論見通りになっていた。

 それと、教頭先生は補導と言っていたけど、グルチャの情報のが正しければ、恐らく逮捕とは言えない学校側の何か事情でもあったのかな。



 カビゴンがオマケで行った追撃は、中々に悲惨な結果をもたらしていた。


 松田くんは、カビゴンの挑発にまんまと乗り、そしてカビゴンの目論見通りにシオリちゃんを逆恨みして、高校生活を完全に終了させた。

 そして、中学のネットワークで情報が回ってるってことは、地元中にそのことが伝わっているってことで、それが婦女暴行未遂となれば、下手すればもうこの地元には住んでいられないだろうし、親も今の務め先で仕事を続けられないことが予想され、本人だけでなく家族にも大きな被害が出ることになると思う。




 こうしてカビゴンの復讐は、カビゴンの完全勝利で終わった。


 しかも、カビゴンは宣言通り1週間以内にケリを付けた。




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