#42 エンディング



 夏休みの間、学校の補習や予備校に通いながら、春日くんカビゴンのお家にも何度か脚を運んでみた。


 8月頭、3日ぶりにカビゴンのお家を訪ねると、外からでも解かるようにもぬけの殻になっていた。

 窓のカーテンとか全て無くなっていたから。





 ◇◆◇





 夏休みが終わり2学期の初日、始業式後に職員室の教頭先生を訪ねて、カビゴンの転校先を教えて貰った。


 E県の県立高校へ転校していた。


 ネットなどで調べたら、地元から新幹線で2時間以上かかるみたいだ。

 偏差値はウチの高校よりも高いらしい。





 1学期最後の日以降にカビゴンへ送ったメッセージは既読がつかないままだった。


 スマホの電話番号は、8月下旬に「現在使われておりません」とアナウンスが変わった。







 松田くんは逮捕の後、即退学になった。

 鈴木くんは自主退学し、岡山くんは学校に残り夏休み直前から復帰していたけど、2学期以降も完全に孤立していた。

 ただ、いじめが発端の事件だった為、誰も岡山くんに対していじめになるような嫌がらせ等はしておらず、ただ居ない者として扱われていた。

 それは卒業するまで続いた。


 村上先生は、夏休み明けの始業式で、異動になったことが発表された。

 噂では、異動先は教員の再指導する為の研修を受けるとか何とか。あくまで噂だから本当のところは判らないけど、ダメ教師の烙印を押されたことは間違いないと思う。


 シオリちゃんは、学校に残ったけど、ずっと不登校が続いた。

 2年が終わる3月いっぱいまで一度も学校に来ることは無く、当然留年となった。

 翌年、再び2年生として復帰した様だけど、既にその学年でも色々噂が広まっており、結局直ぐに不登校になったらしく、気が付いたら自主退学していなくなっていた。


 中学のネットワークで聞いた噂では、自宅で完全に引きこもりになっているらしい。


 この全てが、カビゴンを裏切ったり怒らせた結果だと思うと、まるでカビゴンが狂気に満ちた悪人の様に見えるけど、カビゴンはずっと冷静で理性的な言動だったし、私にはそれぞれの自業自得としか思えなかった。





 ◇◆◇





 高校生活を終え、私はE県にある国立大学に現役合格していた。


 元々国立を目指していたのもあったし、カビゴンもこの大学を受けているんじゃないかという微かな希望を抱いていた。

 

 私はカビゴンに会いたくて、必死に勉強をしてきた。




 大学近くの学生向けのワンルームに、3月の終わり間近に父に手伝って貰い引っ越しを済ませた。


 大学には徒歩5分程度、E駅までだと自転車で15~20分程度。

 自転車があれば繁華街や中心街まで30分から1時間以内で行ける立地だった。



 4月の入学式を終えて早々、私は郷土研究サークルに入った。


 特に興味があった訳じゃないけど、知らない土地での一人暮らしがとても不安だったし相変わらず人見知りだったので、何とか友達を作ろうと、スポーツ系の華やかなサークルより、勝手なイメージで地味そうなところを選んだ。

 サークルには20名程度が在籍しているそうで、男女比は半々だった。



 新歓コンパが4月中頃に行われた。

 E駅の北口(大学があるのと反対側)から徒歩で10分程の距離にある居酒屋で。


 17時に現地集合と言われていたのでスマホでお店の場所を調べ、まだ慣れていない化粧をして1時間前には自転車で向かった。




 集合時間の30分前には到着してしまい、まだ誰も来ていないお店の前で一人で待っていた。


 待っている間、アルバイトらしき人が数名店に入って行くのを横目に、スマホをいじって時間を潰していると、次第に知っている顔の先輩たちが集まりだした。



 新歓コンパが乾杯で始まると、私は隣に座る同じ1回生の女の子とボソボソお喋りしながら食事をした。


 先輩達もお酒を飲みつつ、みなさん比較的大人しくお酒と会話を楽しんでいる様で、派手に騒ぐサークルじゃなくてよかったとホッとした。



 途中、先輩達に質問されたりして地元のことなどを色々答えたけど、私が当たり前だと思ってたことが地方が違う土地の為か一々驚かれて、逆にこちらがカルチャーショックを受けた。 また、E県の方言も全然分からなくて、それでかなり戸惑ったりもした。


 そんな風に新歓コンパを楽しんでいたら、隣でお喋りしていた子と一緒に先輩からビールを勧められて、コップ1杯だけ飲んでみた。


 初めて飲むアルコールは、苦くて美味しいとは思えなかったけど、何とかコップ1杯分だけは飲み切った。


 その後はウーロン茶を頼んでみたけど、ウーロン茶が来る前に気持ち悪くなってしまい、誰にも言えず、一人でお手洗いへ急いだ。



 何とか間に合って出すものを出して、洗面台で口をすすいでお手洗いから出たけど、顔は暑いし気持ち悪さがまだ残っていたので、しばらくお手洗いの前にあったベンチに座って休憩することにした。


 その様子がよほど体調が悪そうに見えたのか、男性の店員さんが『大丈夫ですか?おしぼりどうぞ。 お冷持って来ましょうか?』と声を掛けてくれた。


 頭はぼーっとしてたけど、仕事中の店員さんの手を煩わせてしまっている申し訳なさと恥ずかしさで「すみませんすみません」と目を合わせずに謝りながらおしぼりを受け取った。



 すると店員さんに『・・・?』とハンドルネームで呼ばれた。



 んんー?



 酔った頭で必死に考えようとしたけど、私がチカ郎だと知ってるのは、カビゴンしか思い浮かばなかった。


 私をチカ郎と呼ぶ店員さんは、私の目線に合わせるようにヒザを着いてしゃがんでいて、私の顔を真っ直ぐ見つめていた。



「あはは、カビゴン見つけた」


『・・・レアポケモン、ゲットだね?』



 カビゴンは、作った笑顔じゃない優しい自然な笑顔で答えてくれた。
















 お終い。









 ___________________



 あとがき ※公開停止前に書いてます


 この本編は「二人の高校生がリアルに出来ること」というのを念頭に書きました。


 財閥令嬢が大した理由も無く勝手に主人公に惚れて助けてくれたりとか、異能力者なんかのチートによる無双とか、現実にはありえないような復讐では無く、ただの高校生が復讐するならどんなことが出来る?と私なりに考えて書いた物です。


 なので経験値の浅い未成年らしく、雑なプランで見切り発車したり、計画を途中で中止したり、思い付きで予定にない行動をするようにしていました。

 また、後出しジャンケンも無しにしてます。ドラマチックさよりもリアルさばかり考えてました。 


 ただ残念なのが、松田が主人公にとって都合のよい行動ばかりするところがご都合主義っぽくなってしまい、そこが少し心残りです。あと松田がもっとかき回しても良さそうでしたが、ストーリー的に収集つかなくなりそうで、こんな流れになりました。



 シリアス物はリアリティを無視した途端、安っぽくなってしまうと常々考えていまして、文章力があれば非現実的な出来事でも実際にあったことのようにリアルに表現できるのでしょうが、私にはその力がありませんので、せめて「実際にありそう・あってもおかしく無いこと」を考えて書きました。





 ■おまけ


 公開停止後、新しく出直し公開となりましたが、再び多くの読者さんに応援して頂きまして、とても感謝しております。 これまでの作品では完結後は多くは明かさない様にしてきましたが、本作に関しましてはお詫びと感謝の気持ちを込めて、本編で描かなかった部分に関して解説します。

 ※あくまで作者の脳内設定ですので、矛盾点などはご容赦下さい。



 ・タダシが小浜に転校することを告げなかった理由


 タダシは微妙に屈折した子供時代を過ごした影響で、女性に対して苦手意識や嫌悪感を持っています。 表立ってその感情が出ることは多くないのですが、中年の女性教師を嫌ったり、不倫した母に対して嗜虐心を刺激されていたのは、そういった感情の影響です。 

 普段はそういった部分は陰を潜めているし、シオリの時の様に恋愛感情も持つことが出来たのですが、家族以上に信頼していたシオリの裏切りが追い打ちを掛ける形になってしまいました。


 小浜に対しては、友人として協力者としては信頼していますが、女性としては距離を取りたくなる存在でした。ただし、普段から作り笑顔がクセになるほど本性を見せない人でしたので、表面上は普通に接していました。

 なので、物理的に離れられる機会にネット上での繋がりも断ち切った、という経緯です。

 逆に言えば、小浜が男性なら、もしかしたら転校のことを事前に告げて、引っ越したあとも交流が続いたかもしれません。



 ・タダシは引っ越しまでの間、どこに居たのか


 身を隠すのと、当分会えなくなる母親との親子の時間を作る為、母親のところに身を寄せていた。



 ・タダシのその後


 E県の県立高校に転校してから、普通に高校生活を送り、小浜が予想した通り、E県にある国立大学に進学して、自宅から通学しています。

 なので、タダシと小浜は、同じ大学の同回生になりました。



 ・小浜がタダシに会いたかった理由


 恋愛感情があったから。

 タダシが居なくなる前はまだ淡く心惹かれる程度でしたが、居なくなってから強い気持ちとなっていきました。


 あと、タダシにお願いした温泉旅行もほったらかしになってましたし。



 ・タダシが小浜に気が付いて、ハンドルネームで呼んだ場面について


 タダシが声を掛けた理由は、懐かしさに思わず、です。

 また、タダシは頭が良いので、地元から遠く離れた土地でこの季節の居酒屋に学生のコンパで来ていた小浜を見て、全てを察することが出来ました。

 自分がE県の高校に転校したことは、前の学校でも調べればすぐわかることで、小浜は自分に会う為にE県の大学を選んで進学したのだと。

 女性不審気味だったタダシは、そこまでした小浜の想いに喜びを感じ、久しぶりに再会した小浜のことを素直な気持ちで受け入れることが出来ました。



 ・シオリ、松田、村上のその後


 すみません。

 考えていません。




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