#38 復讐開始



 7月3日月曜日


 カビゴンは昨日説明していた通り、いじめに関するレポートを放課後宅配業者の営業所へ行き、各所へ発送した。


 夜のビデオチャットでその報告を受けた後、私は「遂に始まった」と緊張で落ち着かず、勉強をしていても集中出来なかったのに、当のカビゴン本人はいつも通りに余裕がありそうな様子で私の勉強に付き合ってくれた。








 7月4日火曜日


 カビゴンは予定通り欠席。

 HRで担任の村上先生が少し騒いでいたが、特に問題にならなかった。


 シオリちゃんは「メッセージ送っても既読にならない」とかなり心配していたけど「寝てるんでしょ。帰りに家まで行って様子見て来たら?」と適当に宥めた。


 夕方17時丁度、クラスの緊急連絡用のグループチャットに、カビゴンが爆弾投下を開始した。


 松田くんたち3人がカビゴンの机にいたずらしてる画像などなど10枚ほど立て続けに貼り付けられ、『5月から毎日ずっと松田、鈴木、岡山の3人からこんな嫌がらせを受けていた。もう限界です』と書き込まれ、更に村上先生との会話の音声ファイルも貼り付けられ『先生に真剣にいじめ被害の相談しても、面倒臭そうに取り合って貰えなかった。 こんなのが教師だなんて信じられない』と追い打ちがあり、『もう何もする気が起きない。僕なんて生きている意味がないんだろうな』とこの日最後のメッセージを残した。


 グループチャットは夜遅くまで大荒れしたが、実名があがった3人と先生は全く反応が無かった。

 一度シオリちゃんから「タダシくんから何か聞いてる?」と焦った様子で電話がかかって来たが「彼女のシオリちゃんが聞いてないなら、私が聞いてるわけないでしょ」と返すと「私だって何も聞いてないよ・・・」とかなり動揺している様子だった。


 この日のビデオチャットでカビゴンは、退屈そうに「ホテルに缶詰めで、暇」と愚痴を零していた。








 7月5日水曜日


 朝、教室へ行くと、松田くん達3人は居なくて、そしてHRが始まると、村上先生の代わりに教頭先生がやってきた。


 教頭先生からは、このクラスで起きたいじめに関して、緊急調査の実施といじめ側の主要メンバー及び担任に対して、詳細取り調べと処分が下される説明があった。


 更に教頭先生からは


「今回の件は、春日くんが教育委員会を始め各所へ訴えている。 実名が上がっている生徒に関しては、3人とも本日休むとの連絡があったが強制的に呼び出し、学校での取り調べを行うことになった。今後厳しく調査を進めることになるので、皆さんも知っていることは包み隠さず正直に報告して下さい」

「また、村上先生については担任を外れて貰う方向で調整中です。 新しい担任は当面の間、私が代行することになりそうです」


 取り調べと言っても、詳細な内容がレポートで提出されているし、言い逃れ出来ない証拠も一緒だから、学校側が今更本人たちに聞いたところで、ただの事実確認と「証拠があるんだぞ」っていう言い逃れ封じしか出来ないと思えた。


 またカビゴンについては、行方不明になっていることには一切触れられず、休みだとしか伝えられなかった。


 シオリちゃんはこの状況になってから終始顔色が悪く、まるで怯えている様子で私が話しかけても歯切れが悪く、カビゴンの昨日からの一連の行動を見て、恐らく自分の浮気もバレていると察したんじゃないかと思った。





 そして表向きは予備校が無い水曜日なのでシオリちゃんと一緒に帰ろうとすると、クラスのグループチャットに再びカビゴンが爆弾を投下した。


 シオリちゃんと松田くんが抱き合ってたりキスをしている写真や決定的なメールのやり取りのスクショが大量に連続で貼られ、『信じていたカノジョはいじめの首謀者と浮気とか、どれだけ僕を追い詰めるつもりなんだ。 もう誰も信じられない。 こんな人生終わりにしたい』とメッセージが書きこまれた。


 私もシオリちゃんも帰る直前でまだ教室におり、他にも10人ほど教室に残っていた。



 私は直ぐにスマホを確認して、まだスマホを見ていないシオリちゃんに突き付けた。


「コレ、どういうこと? 何でシオリちゃんが松田くんとキスしてるの?」


 教室中に聞こえる様に強めに言い放つ。


 シオリちゃんは目を見開いて驚いた表情をしたあと、ブルブル震えてしゃがみ込んでしまった。


「ねぇどういうことか聞いてるんだけど? 春日くんをいじめてた松田くんと二股掛けてたってどういうつもりなの? 黙ってないで答えてよ」


「わたし、しらない・・・・」


「知らないって、ハッキリ写真に写ってるじゃん! 私が浮気大嫌いなの知ってるよね? 中学のときどれだけ辛い思いしてたか見てるよね? しかも春日くんの親もつい最近不倫が原因で離婚してるんだよ? シオリちゃん、春日くんに恨みでもあるの? なんでこんな酷い仕打ちが出来るの?」


「うそ、そんな・・・」


 教室に残っていた他の人たちも、軽蔑する眼差しでシオリちゃんを遠巻きに見ていた。


「アンタみたいな糞ビッチ、顔も見たくない。 もう二度と話しかけないでね」



 私はシオリちゃんへ絶縁宣言を言い渡して、一人で教室を後にした。



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