#37 仕上げ



 お泊りデートを経て、シオリは僕に依存気味になっている様だった。


 学校では朝のHR前や休憩の度に僕の席にやってきては、人目も憚らず僕にベッタリしてきた。 美人でクラス委員をするほどの優等生だったシオリの、そんな態度の変化はクラスの中でも目立っていたが、好きなようにさせた。

 更には「部活終わるまで待ってるから一緒に帰ろ?」と言い出す日もあり、今更既に部活を辞めてることは言い出せないので『じゃあ今日は部活さぼるよ』と如何にもシオリの為にっていうていで一緒に帰り、放課後のデートをしたりもした。

 そして、メッセージの量や通話時間も増えていき、当初難しいと思っていた”松田よりも僕に向かせ、夢中にさせる”という目標は達成出来たと思えた。


 お泊りデートの内容は小浜には刺激が強いからと詳細は話していなかったが、シオリの様子を見て「いったい何をしたの??? 凄く怖いんだけど」と不安がっていた。



 ということで、シオリの様子から尾行調査を打ち切った。

 お泊りデートの時にシオリのスマホをこっそり調べたが、松田とは完全に切れているようだし、これ以上調査を続けても意味が無いだろう。


 代わりに、6月いっぱいはシオリを散々甘えさせて、それに応えるようにした。

 

 僕との付き合いの中で、シオリにはこの時期がもっとも幸せを感じていたはずだ。

 松田との浮気を上手く隠せていると思っていただろうし、僕からの性的な要求を全て応えたことで、僕との恋人としての信頼を勝ち取ったと思っていただろう。 学校での周りの目など気にしていないかの様に僕へ接する態度がそれを物語っていた。


 無自覚にとは言え、そんな信頼関係なんてただの思い込みの酷く脆い物だと、自ら僕に突き付けたクセにね。


 兎に角、これでシオリを突き落とす為の仕上げは完了した。




 ◇◆◇





 7月の最初の週末、シオリは会いたがったが、用事があるからと断った。

 もう二人きりで会うつもりは無い。




 土曜日は自宅で1日かけてレポートの作成をした。


 これまでの松田たちから受けた嫌がらせと、担任の村上に相談した時の対応を整理しながら、母の時に見せてもらった興信所のレポートを参考に作成した。

 内容は、いじめ被害全ての詳細、松田達が犯人だと証明する犯行写真、村上に相談した際の村上の対応。


 特に受けた嫌がらせの回数が膨大で、レポートにするのに丸一日かかってしまった。 そして出来上がったレポートを共有フォルダに入れて、小浜にも内容を確認してもらった。



「レポートとしては完璧だと思うよ」


『うん。 でも、こうして見ると内容が弱いんだよね』


「う~ん、1つ1つは小さい嫌がらせだけど、流石にこれだけの回数あれば重大案件になるとは思うけど。 でも確かに、学校側が隠蔽体質なら、なんとか穏便に済ませようとするレベルかもね」


『この内容で如何に僕が精神的にキツくなってるかをアピールする必要があるな』


「そうだね・・・」


『よし、決めた。 自殺仄めかして数日失踪するよ』


「え!?」


『そこまですれば学校サイドも騒ぐでしょ』


「そうかも知れないけど・・・」



 自殺騒動の案はレポートを作成している時に思いついた。

 どうせ引っ越して転校するし、っていうのもあった。



『ココから1週間の間にケリを付けるつもり』


「うん」



 作戦の詳細を小浜に説明する。


 月曜日

 放課後、いじめの資料を宅配業者のメール便で発送。 

 着日時を翌日火曜日の夕方に指定。

 送り先は、高校、県の教育委員会、市役所の市民相談窓口、地元の新聞社、不登校生徒の受入等をしているNPO法人。

 そして、いじめ主犯の松田・鈴木・岡山、そして村上の自宅。


 また学校宛の封書には、このレポートの送付先リストと村上との会話を録音した音声ファイルを入れたUSBメモリも添付。これは学校側に有耶無耶にさせない為のプレッシャーが目的。


 火曜日

 僕は無断欠席し、隣の市にあるビジネスホテルへ避難。

 夕方、クラスの緊急連絡用のグループチャット(生徒全員と担任が登録しており、緊急連絡以外は普段使われていない)に、いじめの犯行現場を撮影した写真や、村上との会話の音声ファイルを貼り付け、いじめで精神的に限界であることと自殺を仄めかすメッセージを残し、スマホの電源を切って放置。


 水曜日

 再びクラスのグループチャットへ、シオリと松田が浮気していた証拠を貼り付け、シオリの裏切りに絶望して再び自殺を仄めかすメッセージを残し、シオリには別れるメッセージを送って様子見。

 同時に小浜からもシオリに対して浮気の件を問い詰める。



 木曜日以降は何もせずに放置し、ビジネスホテルで待機。


 因みに、父と母には火曜日に『騒ぎ起こすけど死ぬとか無いから。 散々迷惑かけたと思うのなら、黙ってやりたいようにさせてね』とメッセージをそれぞれに送り牽制しておく。



『こんな感じの流れで行こうと思うけど、どうかな?』


「不安要素はあるけど、いいと思うよ」


『あと、途中で警察とかに保護されたりしたら中断するしかないし、誰にも見つからないままでも来週末には家に帰る予定で』


「うん、わかった。 その間はビデオチャットで連絡取り合えるよね?」


『うん、もちろん。 チカ郎には学校やシオリの様子を報告して欲しい』


「了解。そこは任せて」



 こうして、僕は復讐を開始した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る