4.勇者の選択
私が人間達の『お願い』を一蹴した、その夜。
私とハヤト達は、一つの部屋に集まっていた。
ここは私のお部屋。勇者には一人一つの部屋を割り当てられた。しばらくはそこで過ごしながら、魔王討伐に向けて訓練をする予定だったみたい。
でも、私が一方的に魔王討伐を拒否したから、今はただ部屋を貸してもらっているだけになっている。
もちろん、無期限というわけじゃない。
私は拒否したけれど、他の三人はまだ答えが出せなくて、この話は一旦保留。今は一先ず落ち着いてもらって、また日を改めて答えを聞かれることになるみたい。
その返答次第でこの部屋を、この城を追い出されるかどうかが決まる。
脅迫みたいなものだけど、これは仕方ない……のかな? いくら栄えている国でも、居座るだけで何もしない人を養う無駄な財力を使いたくないんだと思う。
それが、たとえ人間を救う勇者であろうと、仕事をしなければただの無価値な人間と同じだから。
「今後、俺達がどうするべきかを話し合いたい」
謁見の間から戻って、それぞれの部屋に案内される直前、ハヤトは私にそう言ってきた。
だから今、私達はこうして集まっている。
集合場所が私の部屋になったのは、足が不自由だという設定がまだ生きているから。私が動くのは大変だろうって、そういう気遣いができるハヤト達は、本当に優しい性格なんだと思う。
「眠いから一週間後にして」って言いたかったけれど、それじゃハヤト達が可哀想だなって思ったから、私は頑張って会ってあげることにした。
「俺達は、どうすればいいんだろう……」
ハヤトはこの後の行動を何も考えていなかった。
……ううん。考えられないんだ。
夜になったとは言え、まだ彼らは召喚されて半日くらいしか経っていない。
すぐに落ち着くのは無理だと思う。全く動揺していない私の方がおかしくて、今は三人の反応が正しい。
「三人は、どうしたいの?」
私は眠りたい。
だから魔王討伐なんて面倒なことはしたくない。
それに、ここの大人達は卑怯で、とっても無責任だ。
そんな人達に協力したくないと思うのは、当然のことだと思う。
でも、三人は違うのかな?
自分達じゃ何も出来ない。だから異世界の子供に任せる。帰り道は保証しない。自分達の役目は勇者を召喚することと、勇者を育成することのみ。それ以外は知らない。それ以外は全て神様が決めることなのだから。
そう言われたようなものなのに、三人は怒っていないのかな。
それとも……怒りさえ感じないほどに、混乱しているのかな。
「俺は……このまま訓練を受けるべきだと思う」
その言葉を聞いて、私は「正気かな?」と不思議に思った。
「協力するにしろ、しないにしろ……どうせ俺達はこの城から出ることになる。俺達の世界はとても平和だった。争いが一切無かったとは言えないけれど、日本は比較的安全な場所だったんだ」
にほん、聞いたことのない場所だ。
でも、戦争のないとても平和な場所だと聞いて、すごく羨ましいと思った。それは私が望んでいる形だ。私達の街が目指しているものだから。
「そんな俺達が、急に戦えるわけがないだろう? それなら今はおとなしく訓練を受けて、少しでも戦えるようになっていたほうがいいと思うんだ。ついでに、この世界のことも知りたい」
それを聞いて、納得した。
拒否しても同意しても、結局はこの城を出ることになる。
何も分からない状況で追い出されると、三人はすぐに死ぬと思う。だから今は王様の言葉を信じて、最高峰の訓練を受けるべき。……ハヤトはちゃんと、そこまで考えていたんだ。
私は強い。
自分でこういうのはアレだけど、誰よりも強い。
だから弱い人間の考えを理解していなかった。
追い出されるのは困るけど、別に死なないからどうにかなるかなって思っていたんだ。
──弱者には弱者なりの考え方がある。
私にそう教えてくれたのは、誰だったかな。
クロ? それともミルドさん? ……どっちでもいいか。
とにかく誰かがそう言っていたのは確かで、私はようやく、その言葉を理解できた。
「ん、それでいいんじゃないかな」
これは、三人にとって大切な選択だ。
今後の人生を左右すると言っても過言じゃなくて、だからこそ行動は慎重になるべきだと思う。
「レアちゃんはどうするの?」
「私……?」
「もし良ければだけど一緒に居たいな、って……レアちゃんだけ拒否して追い出されるのは、見ていられないの」
拒否すれば追い出される。
それは自業自得なのに、ユウナは見ていられないんだって。
「ん、ユウナは……優しいね」
「……え? あ、いや……私はただ普通のことを……」
「ううん。ユウナは優しい。他人を心配できるのは、それを普通だと言えるのは、ユウナが優しい証拠だと思うの」
私は、私のやりたいようにやる。
それは今も昔も変わらない。
でも……うん、そうだね。
私もちょっとだけ、今後の予定ってものを考えてみようかな。
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