第3章

1.勇者って、なに?


 知らない部屋に、知らない人達。

 そして、その人達に囲まれるように座り込む────


「成功だ。成功したぞ!」


 感極まったように、誰かがそう言った。

 それに釣られて他の人達も喜ぶように声を上げている。中には涙を流している人もいて、喜びと困惑が入り混ざったこの空間は、ちょっとした混沌カオスが出来上がっていた。


 ここは、どこなんだろう?


 私の記憶の中に、こんな部屋は無かった。

 お部屋に飾られた絵画や置物、カーテン、絨毯……そのどれもが高価そうだって一目見ただけで分かる。私を囲む人達もそうだ。魔法使いみたいな格好の人達の後ろにいる人間さんは、どこか身分が高そうな印象があって、まるで人間の国の貴族みたいだ。


「なんだここは! ここはどこなんだ!?」


 すぐ近くで聞こえた、若い男の人の声。

 私と同じように大人に囲まれて……魔法陣? っぽい模様の上に座っている三人のうちの一人が、さっきの声の主みたい。


 私と同じ状況になっている人は、私の他に三人いた。

 男の子が一人と、女の子が二人。三人ともまだ成人手前の人間みたい。そして三人とも、珍しい服を着ている。今まで見たことのないお洋服だけど、どこの国の人間なんだろう? 同じようなデザインだから、三人は知り合いなのかな?


「ここ、どこなの? 怖いよ、美香ちゃん……」

「大丈夫。大丈夫よ、祐奈……私達がついているから」


 女の子二人は、この状況を怖がっているみたい。

 涙目で抱き合って、今も喜びに熱中している大人達を警戒したように見つめている。


 ……それもそうか。

 急に知らない場所に飛ばされたんだから、怖がるのも無理はないと思う。

 それもまだ成人していない子供なんだから、怖いっていう気持ちはより大きいんじゃないかな。さっき叫んでいた男の子も、恐怖を隠し切れていないのか手は震えているし……。




 …………え、私?




 急に変なところに来たのは驚いたけれど、怖くはないよ。

 何が起こっても別に死ぬわけじゃないんだし、好き嫌いでご飯を残しちゃった時のシュリの方が……もっと怖いもん。


 でも、そっか……ここは知らないところなんだよね。


 クロ達、きっと今頃……私以上に驚いているだろうな。

 契約した時に繋がった線でみんなのことを探ろうとしても、離れすぎているのか反応がイマイチ分からない。

 無事だってことだけは分かるから一安心だけど、急に離れ離れになっちゃったのは、寂しいな。

 出会ってからずっと一緒だったのもあって、その気持ちはずっとずっと……私が思っていた以上に強かった。


 でも、クロ達のことだ。


 世界中を探し回ってでも私のことを見つけてくれるって信じている。だから私は私で、変に動き回らないように気をつけながら、クロ達が迎えに来てくれるまで大人しく眠っていよう。




「ようこそ勇者様方!」


 と、やっと大人達が喜びの舞から戻ってきたみたい。

 今いる人間さんの中で最も偉そうな人間さん──ややこしいから『髭さん』って呼ぶ──が一歩前に出て、私達に向けてその言葉を口にした。


 …………勇者? 何それ?


「む、四人……? 言い伝えによれば勇者は三人だという話だが……」


 え、三人なの?


「まぁ、古い言い伝えだから間違いもあるだろう。勇者様は多ければ多いほど嬉しい」


 …………いいんだ。


「さて勇者様方。急なことで驚かせてしまい、申し訳ありません。……しかし、こちらもただならぬ事情があってのこと。どうかご無礼を許していただきたい」

「あなたは、誰ですか……? ここはどこなんですか?」


 男の子は女の子達 (私含む) を庇うようにして、髭さんに質問する。


「私はロマンコフ・バトラーと申します。ラットベルン王国の大臣を務めております」


 ラットベルン王国、聞いたことのない名前。

 でも、そこの大臣ってことは、私の街で言う『クロみたいな立ち位置の人』……なんだよね? やっぱり偉い人だったんだ。


「さて、こうして呼んだのは他でもなく……勇者様方に折り入ってお願いしたいことがあるのです」


 何やら重大な話になりような予感。

 すごく面倒くさそう。帰って眠りたい────あ、帰り道、分からないんだった……くそぅ。


「勇者様方には、魔王を討伐していただきたいのです」

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