30.結界を強くしよう


 結界──カイちゃんと言葉を交わせることは、分かった。

 シュリはすごく驚いていたけれど、ひとまず私のやりたいことを優先する。……さっさと用事を終わらせて眠りたいから。


「カイちゃん。侵入者を捕まえてくれて、ありがとう」

【どういたしまして! マスターが喜んでくれると思って、頑張った甲斐があったの!】


 マスター……また新しい呼び名が増えた。


「それで、ね? カイちゃんが、もっと強くなってくれたら……すごく嬉しいの」


 結界を改造したい。

 そのために私は、結界と話したいって思った。


 まずは第一関門突破、かな。

 でも、ここからが重要。これで無理だって言われたら、頑張って起きた意味がなくなっちゃう。


【大丈夫なのよ!】


 どうやら杞憂だったみたい。

 すごく元気に返事をもらえた。


【でも、】

「?」

【私だけだと何もできないの! 私の性能をもっと強化するために、マスターの魔力が欲しいの!】


 クロもシュリも、私が何をしなくても変化した。

 でも、結界はそれができないみたい。


 やっぱり契約は契約でも、少し違うのかな?


「どのくらい、欲しい?」

【いっぱい! あればあるほど、私はもっと強くなれるの!】


 私が沢山、魔力を注ぐだけ結界は強くなる。

 それは良いことだと思うけれど、それって私の魔力じゃないとダメなのかな?


【マスターの魔力じゃないと嫌なの! マスターの以外は、不味いの!】


 ダメみたいだった。

 でも不味いって、まるで食べ物みたいな言い方……。


 結界にとっては、私の魔力が食事なのかな?


 魔力はどうせすぐに回復する。

 たとえ全部吸い尽くされても、ちょっと眠ればすぐに回復するから問題ない。


「ん、それでカイちゃんが強くなれるなら、吸っていいよ?」

【やったー! いただきます、なの!】


 結界から紅い糸が降りてきた。

 それは私の指に絡みついて、瞬間──


「っ、ん……!」

「クレアちゃん! 大丈夫!?」

「……、…………だい、じょうぶ……びっくりした……だけ」


 体の中から直接魔力を吸われる感覚。

 初めての感覚で変な声が出ちゃったけど、耐えられないわけじゃない。


「ちょっとカイちゃん! 私の可愛い娘に無理させたら、ただじゃおかないわよ!」

【大丈夫なの。マスターの健康第一なの!】


 シュリの威圧を受けても、結界はほとんど態度を変えない。

 一応、私のことを最優先に考えてくれているみたいだけど、次点で自分のことしか考えていないみたい。……誰に似たんだろう?


「ん、カイちゃん……そろそろ……」

【分かったの! すっごく美味しかったから、またお願いなの!】


 ちょっと気持ち悪くなったら、すぐにやめてくれる。

 暴走しなくて、良かった……。これくらいなら毎日、起きている間は魔力をあげられる。


【これでもっと強くなれる……マスターは何をお望みなの?】

「えっと……ひとまず強度を増してほしい?」


 一気にあれこれ追加すると、魔力が足りないかもしれない。

 だからまずは無難なところからお願いする。結界の強度が上がるだけで十分だから、これで様子を見る。


【その程度ならヨユーなの!】


 ──ドクンッ。

 空間が一度だけ、大きく震えた。


 契約の主だからなのかな。

 結界がより強くなったって、本能が悟った。


【これで核兵器が飛んできても、私は無傷でいられるの!】

「おおー、すごい……」


 その『かくへーき』が何かは知らないけど、とにかく凄いってことだけは分かった。


【これでもまだまだ魔力は残っているの。他はどうするの?】

「結界の維持を、お願い」

【分かったの!】

「どれくらい、保つ?」

【んー……たぶん、一週間くらいなの!】


 思ったよりも余裕があった。

 毎日起きて、魔力をあげる必要はないみたい。それは嬉しい。


「それじゃあ、これからもよろしくね?」

【うん! マスターのために頑張るの!】


 やりたいことは呆気なく終わっちゃった。

 他にやりたいことはないし、魔力を半分くらい吸われたせいで、ちょっと疲れた。


 ベランダに備え付けられているベッドに転がる。

 部屋の中にあるベッドよりは劣るけれど、日光が当たってすごく気持ちいいから……私はどっちも好きだ。


「…………ほんと、凄い子よね。私達のために頑張ってくれて、ありがとね」


 ──大好きよ。


 目を閉じて夢の中に沈もうとした直前、そんな呟きが聞こえた。

 その後、頬に押し当てられた柔らかい感触が、どうしてか凄く嬉しかった。


 ああ、今日も……良い夢が見れそう…………。


 穏やかな晴天の空。

 陽の光を浴びて、柔らかい温もりに包まれながら、私は静かに……眠りについた。

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