29.結界と交流しよう


 クロ達が本格的に動き出した。

 なんか、西の魔物と襲撃者の件は関連があるみたいで、これ以上、後手に回って動くのは危険だと判断したんだって。


 そのせいで、みんながより一層忙しそうにしている。

 クロもロームもラルクも、最近になってからはあまり話せていない。それでも一日に四回から五回くらいは必ず顔を見せに来てくれているみたいだけど、私がずっと眠っているから会話は一方的だ。


「…………むむむ」

「クレアちゃん? 可愛く唸っちゃってどうしたの?」


 シュリ、これでも私は頑張って悩んでいるんだよ。

 わざと可愛く唸っているわけじゃないから、あまり邪魔しないで。……あ、でも……気持ち良いからもっと撫でて。


「……改造、するの」

「改造? それを聞くと、いやぁ〜な予感がするんだけど……何を改造するの?」

「結界」

「……結界、って……この前クレアちゃんが契約した、あれのこと?」

「ん、それ」


 起きている間は暇だから、何かしようと思った。

 そこで私に何ができるんだろうって考えて、結界をどうにかできないかなって思った。


 普通、契約しちゃえば私からは何もできない。


 クロは私のことをもっと知りたいって思ったから、より深く心が通じ会えるようになった。

 シュリは私の本当の家族になりたいって思ったから、人間の姿になることができた。


 契約した相手が強く変わることを望まなきゃ変化は起きない。


 でも、結界は違う……と思う。

 確かな根拠はないけれど、クロ達は生き物で、結界は無機物(?)だ。同じだと決めつけるより、試してみたほうがいいんじゃないかなって思って、起きている間だけでも頑張ってみようと行動してみることにした。


 私が考えていることを、そのままシュリに説明する。


「うーん、魅力的ではあるわね。もし本当にクレアちゃんの思いのまま、結界の性能を変えることができれば……それは凄いことよ」

「みんな、喜んでくれる?」

「もちろん! 襲撃者の時も、クレアちゃんの結界が活躍してくれなかったら、もっと大事になっていたかもしれないのよ? 私もクロも、みんなすっごく感謝しているの。それがもっと強化されるなら、願ったり叶ったりだわ」

「……ん、良かった」

「でも、無理だけはしないでね? 頑張ってクレアちゃんが消耗するのは、この私が許さないわよ?」

「大丈夫。ちょっと疲れたらすぐに休憩する」

「なら良いわ。それだけ約束してくれるなら、クレアちゃんの好きにしなさいな」


 ママの許しも出たし、早速頑張ろう。


 でも、どうしよう。

 結界って会話できるのかな?


「………………」


 ここからだと結界が見えない。

 もっと窓に近づけば見上げられるかな?


「なぁに? お外に行きたいの?」

「ん、結界が見えるところ、行きたい」


 そう言うと、お願いするより先にシュリは私を抱っこしてくれた。


「外でやると変に目立っちゃうから、ベランダに行きましょうか」

「…………いつの間に」

「ガッドが作ってくれたのよ。最近、クレアちゃんがお外で眠るのにハマっているって話したら、わざわざ遠出しなくても大丈夫なように……ってね」


 私の部屋は、建物の二階にある。

 そこから出っ張った縁は相当作り込まれていて、日向ぼっこができるように寝床もあった。シュリはそこに運んでくれた。……すごい。ちゃんと寝心地がいい。


 ああ、感動したら、だんだん……眠く…………。


「結界を改造するんじゃないの?」

「…………はっ……」


 危ない危ない。

 シュリが居なかったら、もう眠っていた。


「…………ん、ここなら見える」


 薄い赤色の膜が、街を覆い囲むようにできている。

 でも、前見た時よりちょっと濃い……? 私が見たいと思ったから、出てきてくれたのかな?


「透明になれる?」


 スッ、と結界が見えなくなった。


「おおー」


 本当に言葉が届いた。

 すごいと拍手したら、結界の一部分が赤く染まった。


 …………もしかして、照れてる?


 一部分だけ浮かび上がらせることもできるんだ。

 だったら、それを利用できないかな?


「文字、書ける?」

【書けるよー】

「おおー、すごいすごい」

「確かに凄いけれど……どうして普通に受け入れちゃってるのかしら、この子……」


 シュリは苦笑いしている。

 驚いている……のかな?


 まぁいいや。今は結界に集中しよう。


「結界、さん? うーん、なんて呼べばいいんだろ……」

【カイちゃんって呼んで?】

「え?」

【カイちゃんって呼んで?】

「あ、うん。……カイちゃん」

【(^ ^)】


 顔が浮かび上がってきた。


「結界って、すごいなぁ……」

「いや、そういう次元の話じゃないわよね!?」

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