26.侵入者がやって来た
「ギャアーーーーーーーーッッッ!?!!!?!」
それはとても深い夜。
森も、そこに生きる生き物も皆、寝静まっている時間。
そんな深夜に聞こえた、断末魔のような絶叫。
街中に響き渡ったその声に、私は目覚めた。
「…………ん、ぅ……なに……?」
うるさかった。
男の人の、声……?
「ん、もう……なによ、全く……」
シュリも起きたみたいで、苛立たしげにそう呟いている。
さっきの絶叫がただ事じゃないと判断したのか、すでに私はシュリに抱きかかえられて、守られていた。
「……シュリ……?」
「大丈夫よ。何があっても、私がクレアちゃんを守ってあげるからね」
何があったのか分からないけれど、シュリが一緒にいるなら安心できる。
シュリは私との契約で人間の姿になって、さらに契約が深まったおかげなのか全体的に強くなった。今ではクロの次に強いロームと戦っても、互角に渡り合える……らしい。
実質、シュリは街で二番目に強い。
だから、こういう緊急事態? はシュリの近くにいる方が一番安全だと思う。
『主!』
しばらくして、クロがやって来た。
かなり慌てていたのか、ちょっと息が荒い。
「クロ! 来るのが遅い!」
『す、すまん……各方面に指示を出していたら、遅れた……』
「……ん、大丈夫だよ」
クロは色々と大変だから、仕方ない。
むしろ、私のことは放っておいて、先に事態の収束を優先していいのに……こうして様子を見に来てくれるんだから、嬉しい。
「何が、あったの?」
『侵入者だ。皆が寝静まった頃を狙ったのだろう』
「はぁ? 侵入者? ……ちょっと、見張りはどうしたのよ」
『相当な手練れだったらしく、隙を見せた瞬間に掻い潜られたようだな。……面目ない』
クロが謝ることじゃない。
監視当番も、同じだ。
監視は交代制で、夜は特に厳重な警戒体制を敷いている。その中で侵入を許したってことは、本当に相手は凄い手練れだったんだ。止められなかったのも仕方ないと思う。
「でも、さっきの悲鳴は……?」
『どうやら、主が作り出した結界が効果を発揮したようだな』
「……私の?」
『侵入者は紅い糸のようなものに縛られ、動けなくなっていた。相当な負荷を掛けられたらしく、見事に気絶までしていた。……その糸からは主の魔力を感じたため、結界が何らかの効果をもたらしたのだろうと予想したが……あっているか?』
顎に手を当てて、考える。
三人が作ってくれたのは、単純に強度が高いだけの結界だった。
私がやったのは、それと契約して規模を広げただけ。侵入者を縛る効果があるわけじゃないけれど……なんでだろう?
「多分、結界が自分で動いた……のかな」
『……なんだと?』
「契約した時点で、結界は自我を持つようになったのかも……。だから侵入者が入ってきた時、自分で判断して動いてくれたんじゃないかな、って」
結界を発動してから私が願ったのは、みんなの安全。
もし結界がその願いを聞いていたなら……。
「クレアちゃんが契約した魔物の中には、知性を持たない魔物もいたわね」
『ああ、しかしそいつらには知性が芽生え、今では問題なく言葉を交わすことが出来ている……もし、結界もそれが適用されるのであれば』
「…………ねぇ、それって凄いことなんじゃない? 自我を持った結界なんて、聞いたことがないわよ」
『我だって同じだ。今まで誰も成し遂げられなかったのだからな』
ん、なんか凄い話になってきたような……?
クロとシュリがこっちを見てくる。
違うよ? 私は契約しただけで、何もしてないよ?
だから、ね? ……えっと、あまりこっちを見ないでほしいな。
『まぁ、主のことだ。常識が通じないのも今更だろう』
「……そうね。クレアちゃんだものね」
と思っていたら、なんか納得された。
…………腑に落ちない。
『一先ず、結界のことは後回しだ。これから侵入者の尋問を開始する。何か分かり次第すぐに報告させるから、待っていてくれ』
「……ん、気をつけて」
『心配には及ばない。主の紅い線は、我が全力を出しても解けなくてな。侵入者ごときがどれだけ暴れようと、こちらに危害は加えられないだろう』
クロの全力でもダメだったんだ。
それって凄い……んだよね?
……いや、あまり深く考えないようにしよう。考えるのは苦手だ。
『では行ってくる。シュリ、ここは任せたぞ』
「誰にものを言ってんのよ。言われなくてもクレアちゃんは死守するわ」
軽口を言い合って、クロは部屋を出て行った。
「驚いたわね」
「ん、急に大声が聞こえたから……びっくりした」
「そういう訳じゃ……まぁいいわ。後はあっちに任せましょう。尋問も長く掛かりそうだし、私達は眠りましょうか」
それに頷いて、横になる。
中途半端に起こされたから、正直すごく眠い。
侵入者が、どんな目的で来たのか。
それは気になるけれど、今はクロ達に任せるしかない。
みんなに何も起こりませんように。
私はそう願いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
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