25.みんな頑張っている


 私の結界は、ほぼ無限に継続して張り続けることができる。

 魔力消費よりも、私の魔力が自然回復する方が早いから、無駄に動かない限りは永続と言っても大丈夫。


 そのおかげなのか、街のみんなは安心して他の仕事に集中できているって、クロが嬉しそうに報告してくれた。


 この街は良い意味でも悪い意味でも、注目されている。

 その影響でいつ敵対者が現れるかわからないから、常に街の周囲を警戒しておく必要があった。


 でも、その心配はもう要らない。

 警備に回していた戦力も、他に手が足りないところ……例えば建物の建築や、街の規模を大きくするための開拓に回すことができて、前よりもずっと早く作業が進むようになったみたい。


 みんな、私に感謝しているみたい。

 でも、一番褒められるべきなのは、協力してくれた三人。


 三人が魔法術式を描いてくれなかったら、私は何もできないままだった。

 だから三人には感謝している。


 おかげで街はもっと安全で、平和になった。


 もちろん、まだまだやることは残っているから油断はできない。

 人間の国……えぇと、ノー…………なんちゃら王国がこの後どんな動きをするか分からないし、エルフの集落を滅ぼした西の魔物のことも気になる。


 人間の国の方は、今も監視を続けているみたい。

 国家資産? をほとんど使い果たして、ようやく完成させた結界を私が壊しちゃったから、その後始末に追われて、何か行動したくても出来ない状態らしい。だから、こっちはまだ大丈夫。


 問題は、西の魔物。

 これはラルク達、偵察部隊のおかげで、どうにか原因の元を探り当てられたらしい。


 でも、うまく動けていない。


 考えなしに動けば街を危険に晒しちゃうから、慎重に動くしか方法がないみたい。

 まずは西側でエルフ族のように魔物の被害にあっている種族や、まだ会話が可能な魔物、助けを求めてやってきた救難者。そんな人達を対象に、この街に避難させることを最優先に動いているって聞いた。


 この件は、クロ達に任せるしかない。

 何かしたいけれど、私じゃ何もできない。だから、みんなを信じて待つ。


 それだけでも十分、みんなの役に立てるって分かったから。




 ………………でも、




「…………、…………」

「なぁに、クレアちゃん。急にそわそわしちゃって……眠れないの?」

「……ん、んん……違う、けど……」


 眠ろうと思えば、眠ることはできる。

 ガッドさんの作ってくれたベッドは変わらず寝心地が良いし、シュリが一緒に眠ってくれるから、とても温かい。部屋の空気も新鮮だ。何も文句なんてない。……ない、けれど。


「みんな、忙しそう……」


 部屋の外からは、今日も色々な音が聞こえてくる。

 指示をする声、気合いを入れる声、金属のぶつかり合う音、木を切る音、聞き分けようと思ったら苦労するくらい、街は色々な音で溢れかえっている。


 全部、街の発展のためだというのは、理解している。

 それに申し訳ないとは思わない。お願いしているのは私だし、みんなが受け入れてくれて、その上で頑張ってくれているんだ。すごく感謝している。


 でも、ずっと働いていて、疲れないのかな……。


 私だったら、たぶん無理。

 歩くだけで疲れると思うし、目を覚ましていられるのは頑張っても一時間。


 なのに、みんなはずっと働いている。

 過労で倒れないようにって、クロが休憩とかの調整をしているんだろうけれど、それでも心配になっちゃうな。


「あー、わかった! クレアちゃん、またみんなの心配をしているんでしょ」

「…………え?」


 どうして、分かったんだろう?

 クロは私の心を読めるけれど、シュリは違うはずなのに……。


 顔に出てたのかな?

 両手で揉んでみるけれど、自分じゃどんな顔をしているか分からないや。


「ふふん、私はクレアちゃんのママよ? 可愛い娘の心くらい分からなくちゃ、母親失格よ!」

「ママ、すごい……」

「そうでしょうそうでしょう? もっと褒めていいのよ?」

「すごい、すごい……!」

「うふふ、そうでしょう!」

「頭もいいし、顔も綺麗。自慢の、ママ……!」

「うぇへへ……そこまで言われちゃうと、照れるわねぇ」

「すっごく頼れる。だから私にも何かおしご」

「──それはダメ」


 ………………むぅ。


「そのふくれっ面は可愛いけれど、ダメなものはダメなの。それに、クレアちゃんは十分なお仕事をしてくれたじゃない。あの結界のおかげで、どれだけ私達の負担が軽減されたか…………みんな、本当に助かっているのよ?」


「……でも、本当に守れているのかな……」


「まぁ、まだ結果は出ていないけれど……それでも結界があるってだけで心の負担は軽くなるものなの。人間の国だってそうなのよ?」


「……人間、の?」


「ええ、たとえどんなに高い壁で覆われていても、上がガラ空き。いつドラゴンや飛翔系の魔物が襲ってくるのか、もしくは魔物が壁を登ってくるかも……って、普通はそれで不安になってロクな生活も満足にできないのよ。

 でも、結界が自分達を守ってくれると分かっているだけで、人間は今も普通に、彼らなりに幸せを感じて生活している。『結界がある』。その存在はクレアちゃんの思っている以上に大きい」


 ──だから胸を張りなさい。


 シュリはそう言ってくれた。

 結界があるだけで、みんなが助かっている。


「ん、ありがとう。シュリ」


 ママはいつも、私のことを励ましてくれる。

 それが嬉しくて、私はその言葉を聞くだけで満足しちゃうんだ。


 満足して、さっきまでの不安は全部忘れて……目を閉じる。

 シュリに、ママに抱かれながら、私は温かさを感じながら眠りにつく。


 そんな平和の裏で、何が起ころうとしているのかも知らずに……。

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