23.結界を作ろう1


 意気込んでから数日後、私はとある人達を部屋に呼んでいた。


 トロネさん、ミルドさん、ミルドさんに付いてきた人間のムッシュさん。

 この三人に共通しているのは『魔法が使える』という点だ。


 部屋にいるのは、私を含めて四人。

 こういう時に必ずいるクロや、子供以上にくっ付きたがりなシュリは一度、離れてもらっている。

 ロームとラルクに引っ張られて、号泣しながら部屋を去って行ったシュリの背中からすごい哀愁が漂ってきたけれど、これは仕方ないことなんだって私も心を鬼にした。


 これは、みんなを驚かせるためのサプライズだもん。

 協力者は極力、少ないほうがいい。


「今日は来てくれて、ありがとう」

「おう。お前さんのためなら、いつだって駆けつけてやるよ」

「急に集まってって言われたから来たけれど……今日はどうしたの?」


 この三人を呼んだのは、ちゃんとした理由がある。


「ん、三人に意見を聞いてほしくて……」

「意見?」

「ちょっと待ってください。それは……僕も参加していいのでしょうか?」


 ムッシュさんが手を挙げた。

 その顔は不安げで、声も少しだけ上擦っている。

 初めて呼ばれて、急に意見を聞いてほしいって言われたから、緊張しているのかな?


「ミルドさんから、ムッシュさんはすごい魔法の使い手だって聞いた。……私、あまり魔法に詳しくないから……協力してほしい」


 トロネさんは、ゴールドさん達とパーティーを組んで冒険者をしていた時、魔法を後衛で撃って二人を援護する役割をしていたらしい。

 ミルドさんは、トロネさんほど魔法の技術は無いけれど、長年ギルドマスターをしていただけあって知識はある。

 そして顔合わせはほぼ初めてになるムッシュさんは、以前まではギルドの職員として働いていたみたい。でも、そうなる前は冒険者として活動していて、魔法使いとしてそれなりに有名だったんだって。だから良い意見を言ってもらえると思って、ここに呼んだ。


「そう緊張すんなって! こう言っちゃなんだが、クレア様は良い意味で支配者っぽくない。ちょっとの無礼も笑って許してくれるさ。……すまんなクレア様。こいつってば昔から真面目でな。目上の奴ら相手だと、いつもこうなんだ」

「ん、大丈夫。気にしてないよ」


 真面目な人なら、安心して仕事を任せられる。

 だからミルドさんも彼のことを信頼しているんだろうし、私も頼ろうと思った。


「色々とお話ししたいけれど、時間が限られているから本題に入るね?」


 お話しが許されたのは、たったの一時間。

 それ以上はクロ達が我慢できなくなっちゃうから、この間に話せることは話しておきたい。


「この街に、大きな結界を作りたいの」

「「「結界?」」」

「ん、街にいる人を守る結界。それがあれば、この街はずっと安全だと思う」


 この街は、まだ出来たばかり。人手が足りないし、危険も多い。それを結界で少しでも補うことが出来れば、みんなも楽に過ごせるんじゃないかな……って、そう思った。


「確かに、結界の守りがあれば襲撃を警戒する必要がなくなるわね。ついでに警備の人手を他のところに回せるし、一石二鳥ではあるけれど……」

「結界を作り出すには、とても複雑な魔法術式と膨大な魔力が必要ですよね。それをどこから持ってくるかが最大の難点だと思います」

「そうだな。結界を維持するにも魔力がいる。……例えばノーマンダル王国の結界だ。ラルクの報告によれば、あれは国中の魔法使い100人を招集しても一時間程度しか維持できない代物だった。結界は長時間維持し続けるために開発されたものじゃないんだ」


 三人は揃って難色を示していた。

 でも、その心配はいらない。だって──


「私一人で大丈夫」

「…………は?」

「ノーマンダル、王国……だっけ? あの結界程度なら、たぶん維持するのは楽勝。消費する魔力よりも回復する魔力の方が多いと思う。だから、そこは大丈夫」

「「「……………………」」」


 あれ? みんな黙っちゃった。

 普通のことを言ったつもりなのに、どうしたんだろう?


「……は、ははっ……そうだった。見た目に騙されるところだが、クレア様は正真正銘、本物のバケモンだったな」

「…………むぅ、ちょっと傷つく」

「悪りぃ悪りぃ。お詫びに飴ちゃんあげるからよ。それで機嫌直してくれや」

「ん、許す」


 紙に包まれた砂糖菓子をもらって、口に放り込む。

 …………美味しい。


「結界の維持はクレア様がやれるとして、残る問題は結界の術式か?」

「そう。……でも、私には結界の術式とかよく分からないから、三人に協力してほしくて……ここに呼んだ」

「あー、なるほど。私達が作った結界に、クレア様が魔力を注ぐってことよね?」


 肯定して、頷く。


「簡単に言ってくれますが、この街を包み込む規模となると……かなり大変ですよ。まだまだ発展すると考えたら、今以上の規模を想定して術式を書き込む必要があります」

「強度だけを考えたら、どのくらいで完成する?」

「…………はい?」


 変な顔をされた。

 ……聞こえなかったのかな?


「規模は考えずに、強度だけを考慮した場合は、どのくらいで完成する?」

「…………え、えぇと……人一人分が入れるくらいの範囲で、強度は最高威力の魔法に耐え切れるものだと仮定するならば……そうですね。この三人ならば二日ほどで完成するかと」

「じゃあ、それでお願い」

「………………はぁ?」


 また変な顔をされた。

 …………あれ?


「え、っとね……結界と契約をするの」

「契約ですか? それは、魔物と交わす『血の契約』のことですよね?」

「ん、契約すれば後は簡単。強度は元が高ければ高いほどいいから、なるべく強くして……範囲だけなら、契約の後からでも自由に変えられる、か……ら……」


 おかしいな。分かりやすく説明したいのに、話せば話すほど、ムッシュさんの顔が面白いものになっていく。


 私って、説明が下手なのかな?

 誰かにいっぱい説明する機会がなかったけれど、これ……かなり難しい。


 クロなら平気で出来ちゃうんだろうな。

 でも、私にはそういった才能がないみたい。


 ちょっとだけ、ショック……。

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