22.私にも出来ること
『──と、報告は以上だ』
パパの件があってから、私は一ヶ月と少しくらい眠っていたらしい。
その間に何が起こったか、みんなが何をしていたかの報告を聞くことになったんだけど…………
『眠いか?』
「……ん、ごめんなさい」
やっぱりダメだった。
聞かなきゃって思っていても、どうしても眠くなっちゃう。
最初の方は頑張ったけれど、徐々に瞼が重くなっていて、最後はもう……ほとんど覚えてない。
『どうか謝らないでくれ。そんな申し訳なさそうにされたら、こっちが皆から責められてしまう』
「そうよそうよ。クレアちゃんはドンと構えていればいいの。それだけで私達は頑張れちゃうんだから! ……だからね。無理して頑張ろうとしなくてもいいのよ? 後のことはこっちに任せてちょうだい」
私がいるだけで、みんながやる気を出してくれる。
それだけで十分ありがたいと言ってくれる。でも、私も魔物の主として、何が起こっているかの把握くらいはしておきたい。後になって、ちゃんと知っていればこう動けたのにって後悔はしたくないから……。
そのために頑張ろうと決めたけど、私には似合わないのかな。
私にも出来ることを増やしたい。
それでも睡眠優先になっちゃうけど、起きている少しの間だけでも役に立ちたい。
私にしか出来ないことは……ある。
一番分かりやすいのは『血の契約』だ。
それは以前からやってきたし、改めてやる気を出して……というのは違う気がする。
他に役立てそうなことは……戦闘面での活躍?
はっきり言って、私はすごく強い。ちゃんと戦おうと思えば、クロ達を同時に相手しても勝てると思う。夜になればもっと強くなるし、満月の日は更に強くなれる。
だから、やる気さえ出せればいいんだけど……これはボツになった。
『ダメだ! 戦いの場に出るなんて、危険すぎる! と、とにかく! そんなことをしようものなら、我がなんとしてでも止めるぞ!』
『絶対にダメよ! クレアちゃんに何かあったらどうするの! お外は危険なんです! 私達の許可が無ければ、絶対に一人で行っちゃダメだからね!?』
『姫様だけは絶対に前線に出ちゃダメだよ? そんなことをしたら、流石の俺達も怒るからね?』
『たとえクレア様のお力が我ら以上だとしても、それを承諾することは出来ません。クレア様を前線に立たせるくらいなら、この街を捨てて新たな場所に移ります』
その最大の理由が、これだ。
私も戦力として動きたいと言ったところ、このように全否定を受けた。
私のことを赤ちゃんか何かだと思っているのか、すごい過保護になっている。
一人で何かしようものなら必ず誰かが吹っ飛んで来たり、ちょっと困ったことがあれば街の総力をあげて解決しようとしたり。
一番酷かったのは、私が寝相で大きく動いた際にベッドから落ちた時だ。
私は、眠っている最中に頭から落下して、額にちょっと大きなたんこぶが出来た。
それを見たいつもの顔ぶれが大騒ぎ。街にいる医者をかき集めたり、挙句には『世界の秘宝』と言われるほどの薬『エリクサー』を持ってきたりと、収拾がつけられない事態になっちゃった。
ちなみに、エリクサーはすごく有名な万能薬だ。
病や傷はもちろん、呪いや体の不調まで治してしまう。千切れた体も元通り。瀕死から絶好調の状態に戻して、更には体を頑丈にする効果もあるし、ついでに10年ほど若返るとも噂されている。
それらの効果が、たった一滴舐めるだけでいい。
瓶の中身を丸々一本飲み干せば『不老不死』になるって言われているみたいだけど、それを試した人は誰もいない。たった一滴で奇跡を起こせる価値のある物を、本当かどうかも分からない迷信に希望を見出すほど、人間は馬鹿じゃないってことだ。
人間の価値観で値段をつけるなら大金貨1000枚。
大きな国一つの国家予算を丸々使い切る額だって、ミルドさんに教えてもらった。
それをクロ達は、私にたんこぶが出来たという理由だけで持ってきた。
どこから持ってきたのかは聞かない。嫌な予感がしたから。
吸血鬼の再生能力があれば、たんこぶ程度はすぐに元通りになる。
でも、クロ達は『そんな痛々しい姿を見ていられない!』って言って、エリクサーを持ってきた。
私も最初は「軽い回復薬なのかな?」と思っていた。
だって、たんこぶが出来たと言った数分後に薬を持って来られたら、誰だってそう勘違いするでしょう?
それを止めたのは、ミルドさんだ。
どこから持ってきたのか、どのような効果があるのか。
それを詳しく聞き出してくれたから、これがエリクサーだと判明したんだ。
それを知った時の常識人達の反応は面白かった。
顔を真っ青にして、全力で待ったの声をあげていた。
たんこぶなら一番安い回復薬で十分だと言って、クロ達の暴走を止めて、途中口論になっていたけど、みんなの意見が纏まる頃にはもう、私の再生能力でたんこぶは綺麗に消失していた。
結果的にエリクサーは使わなかったけど、ミルドさんのファインプレーが無ければ、私は知らずの内に世界の秘宝を飲んでいたかもしれない。
────っと、すごい話が逸れちゃった。
とにかく、みんなが最近、私に対して過保護すぎる。
役に立ちたいのに十分だって言うし、戦力として動きたいのに危険だからと外に出してくれないし。
もちろん、眠っていられるならそれが一番嬉しいけど……なんかモヤモヤする。
「──あ、」
瞬間、私の脳内に閃きがやってきた。
そうだ。外に出なければいいんだ。
みんなの役に立てて、私が外に出ることもなく、街を守り続ける方法が一つだけある。
それを作れば、この悩みも解決する。
……でも、出来るかな?
やったことがない初めての試みだから、上手くいかないかもしれない。
それでもやってみる価値はある。
私もやる気を出せば役に立つんだって、みんなに知らしめてやるんだ。
「それじゃ、クレアちゃん! 報告も終わったことだし、一緒に寝ましょうか」
「ん、でも……」
『遠慮するな。何かあればすぐに報告する。それまで、主は気楽に眠っていてくれ』
「…………うん」
とりあえず、今は寝よう。
この計画を実行するのは、次に起きた時にする。
みんなの驚く顔を見るのが、今から楽しみだ。
えいえい、おー。
静かに気合を入れた私はゆっくり瞼を閉じて、夢の中に……沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます