13.報告と現実と2


 あの日、私がいつも通り眠っていたら、知らないお爺ちゃんがやってきた。

 その怒っているような声に目覚めて、寝ぼけたままいたら屋敷を追い出されていたんだ。


 その時のお爺ちゃんが、何か言っていたような気がする。


 なんだっけ?

 ああ、そうだ。たしか…………


「誰かが死んだ。全ての決定権は自分にある。私は、一族の恥……」


 断片的な記憶を遡って、ポツリポツリと思い出した単語を言っていく。


 死んだ? 誰が?

 どうしてお爺ちゃんが、屋敷の人達に命令していたんだろう?


『やはり、な。主のことを恥と言った者は後に天罰を与えるとして……我らの仮説はほぼ間違っていなかったことが判明された』

「クロ? それは、どういう」


『──主、すまない』

「え?」


 クロは私の言葉を遮って、ジッとこちらを見つめてきた。

 その瞳には何か固い意志のようなものを感じて、私は思わず……口の中にある唾を飲み込んだ。


「どうして……謝るの?」

『今から主に、とても辛いことを話すからだ』

「辛いこと? 私に、関係しているの?」

『ああ、主の父君のことだ』

「……パパの?」


 どうして、パパの話になるんだろう?


 他のみんなは? みんなは、どう思っているのかな。


『「………………」』


「……みんな?」


 みんな、変な感じだった。

 今にも泣きそうな顔で下を向いて、私と目を合わせてくれない。


『魔物と吸血鬼が交わしていた誓約は、吸血鬼の長が変わったことによって──無効になったのだ』

「え? どうして?」


 意味がわからない。

 だって、代表はずっとパパがやっていた。


 どうして急に、代替わりなんて……。




『あいつが死んだ今、全ての決定権は儂にある!』


 お爺ちゃんの言っていた言葉を思い出した。

 でも何で、今なんだろう?




『…………主』

「っ、や……!」


 私は初めて、クロを拒絶した。

 理由はわからない。でも、これ以上は何も聞きたくないと思ったんだ。


『主、聞いてくれ。たとえ嫌でも、辛くても……知らなければならない。あとで好きなだけ文句を言ってもいい。罵声を浴びせられても構わない。だが、これ以上、現実から目を逸らしていてはダメなのだ。それは余計に辛くなるだけだ』


 ──この感じ、嫌だ。

 胸がキュって締め付けられて、呼吸が苦しくて、全然安心できない。


 嫌だ。


 言わないで。


 嫌だ。


 聞きたくない。


 嫌だ。


 みんな、何も言わないで────


『吸血鬼の長だった者、主の父君はすでに──死んだのだ』


 ………………ああ、やっぱり……嫌だ、なぁ……。


「…………そっ、か……」


 ぼやける視界。

 薄れていくみんなの顔。

 体にうまく力が入らない。


 気がつけば私は──その場に倒れていた。


 みんなの声が聞こえる。

 でもそれは、とても遠くから聞こえてきて、


「もう、なんでもいいよ……」


 小さく呟いた言葉。

 それを最後に、私の意識はプツリと途絶えた。

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