12.報告と現実と1
ラルク達が帰ってきた。
予定よりかなり帰りが遅くなっていたみたいで心配したけれど、みんな大した怪我もなく無事だって聞いて安心した。
遅くなった代わりに沢山の情報を入手したみたい。
戻ってきたのは、三日前くらいだったかな? 私はまだ眠っていたから、その間に皆で一度集まって会議をしたらしく、私が目を覚ました時にはもう次の手を打つためにみんなが準備を進めていた。
それで、今はその偵察部隊が私の部屋に集まっている。
他にはブラッドフェンリルと人間代表の二人、ガッドさん、アルフィンさんもいる。前に話し合いをした時と同じ面子だ。
『クレア様。偵察部隊、帰還したことをここに報告します』
「……ん、みんなお帰りなさい。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」
『ハッ! 勿体無きお言葉でございます』
「え、どうして? 別に勿体無くないよ?」
『は? あ、いや……あれはそういうわけではなく』
「? 違うの?」
『えぇと……その、ですね……』
ん?
『クレア様のお言葉こそが、正しく思います』
「ん、良かった……」
『天然だ』
「天然だなぁ」
『天然ねぇ』
「天然だな」
「天然じゃな」
「天然ですね」
『天然だよなぁ』
みんな、変な顔をしていた。
私は全員無事にって言って、ラルクはそれを守った。
だから、守ってくれてありがとうと言うのは普通のことだと思うけれど、違うのかな。
…………やっぱり、私がおかしかったのかな?
『──ンンッ! 時間がない。そろそろ報告をさせてほしいのですが、クレア様、よろしいですか?』
「ん、お願い」
私は初めて聞くけれど、他のみんなはすでに一度聞いている。
だから、私以外は情報纏めを再度確認するだけだ。
『まず、崩壊したエルフの集落に生き残りは居ませんでした』
「…………そう」
いきなり嫌な報告だった。
もともと、他の生存者は絶望的だって分かっていたけれど、結果として確認してしまうと、少し残念な気持ちになる。
『魔物の異常行動の原因ですが……申し訳ありません。調査だけでは原因を突き止めることは出来ませんでした』
ラルク達が直接調査に行っても、分からなかったんだ。
それは意外だったけれど、無理はしないでって言ったのは私だから、情報を得られなかったのは仕方がない。
でも、どうして分からなかったんだろう?
「魔物を見つけられなかった……?」
『いいえ。魔物自体は沢山いたのですが……異常は見られなかったのです』
「? どういうこと?」
『気性は荒かったようにも感じられますが、そのほうが魔物らしいと思いました。むしろ、今まで他種族に被害を及ぼさなかったことが異常だったのです』
「クレア様が不思議に思うのも分かる。だが、魔物ってのは本来、人間や亜人、同じ魔物だろうと関係なく敵対行動をする存在なんだよ。……この街にいると、そういう当たり前の常識が通用しないからな。感覚が狂っちまうのも仕方ねぇ」
ミルドさんが補足を入れてくれた。
以前までの魔物が変で、今が魔物のあるべき姿……ってことなのかな。
…………そう、だよね。
じゃないと人間と魔物は敵対しないと思うし、普通に生活しているだけでも存在しているってだけで狩られることはない。
この街が特別なんだ……って、今更気づいた。
「でも、どうして戻っちゃったんだろう? 前までは本当に凄くおとなしくて、他の人が嫌だって思うことは一度も、やらなかったのに……」
『そこなのだ、主よ。我々もその疑問に辿り着き、いくつかの仮説を導き出した』
……仮説?
『主の故郷である吸血鬼の住処は、同じ西側で間違いないのだな?』
「……うん。パパに教えてもらった、から」
私達が住んでいる森はとても広い。
広すぎて誰も全体を把握できなくなってしまうから、五つの区域に分けられていて、その一つ一つに区域を統治する魔物が存在するって……。
ちなみに、西側を統べる魔物は私達『吸血鬼』だった。
その代表がパパだって……そこまでは覚えている。
『詳しく調べたところ、魔物の動きが活発になり始めた日と、主が故郷を追い出された日がほぼ同じだったのだ』
「私が追放された日と……?」
『そうだ。……主、何でもいい。辛いことを思い出させるかもしれないが、あの日、他に変わったことは起きなかったか?』
目を瞑って、記憶を辿る。
私が追放された日、その時のことを思い出せるように。
少しでもみんなの助けになれるならと思って、私はとうの昔に捨て去っていた記憶を再び思い出そうと──必死に考えた。
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